岡崎二郎『アフター0(ゼロ)』全6巻 小学館

 8ページから25ページくらいのショート・ショートや短編を集めた作品集です。

 SFと呼んでいいのか,綺譚と呼んでいいのか,幻想短編集と呼んでいいのか,座敷童は出てくるし,輪廻転生は出てくるし,宇宙人は出てくるし,アンドロイドはでてくるし,と,とにかくさまざまな「不思議」な物語が,あるときはコミカルに,あるときはシニカルに,またあるときはミステリアスに,はたまたあるときは感動的にと,手を変え品を変え並んでいます。ヴォリュームたっぷりのコミックも好きですが,なにかこう,いろいろな味の料理を,少しずつ味わうような感じです。故藤子・F・不二雄は,みずからのSF短編を「ワン・アイディア・SF」と呼んでいたそうですが,まさにその直系といった感じです。

 私のお気に入りの作品は,「三月(やよい)の殺人」(第2巻)と「ショートショートに花束を」(第3巻)です。

 「三月の殺人」は,ある格式高い伝統ある一家に起きた殺人事件。ある夜,5人の楽士のひとり・如月が,矢で射殺されます。秘書のカエデが,主人から依頼されて犯人の探索に乗り出します。捜査の過程で浮かび上がる如月と奥方との不倫関係。疑心暗鬼にかられる人々。そしてついにカエデによって真相が明らかにされるのですが・・・・・,じつは,もうひとひねりがあります。そのひねりがじつによくできてます。おもわず「おおっ」と叫んでしまいました。

 「ショートショートに花束を」は,宇宙線の増大によりほとんどの生物が絶滅したのち,シェルターの中で生き残った男の話。もともとペシミストだった男は,シェルターの中での孤独をまぎらわすため,膨大な本を準備します。しかし書庫は放射能に汚染されてしまい,手元にはわずか1冊のショートショート。一度読んでしまえば,それで終わり。男は酒で気を紛らわしますが,あるとき,よっぱらって頭を打ってしまいます。その結果・・・・。これ以上書くとネタばれになってしまいますので,ここでとめますが,タイトルはSFの古典『アルジャーノンに花束を』のパロディでしょう。また手元に残ったショートショートはフレデリック・ブラウンのようです。

 岡崎二郎には,同じような「不思議短編集」として『トワイライト・ミュージアム』というのもあります。そのほか,『大平面の小さな罪』『国立博物館物語』, 『NEKOなどがあります。

=付記=
本シリーズは,2002年に「著者再編集版」という形で,コミック未収録作品を加え,計8冊で改めて出版されました。感想文はこちら>1・2集3・4集5・6集7・8集


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