岡崎二郎『国立博物館物語』1巻 小学館 1997年

 待ちに待った岡崎二郎の新シリーズです! うきゃうきゃ!(<あ,にとさんが入ってる(笑))。
 舞台は上野にある「新東京博物館」,モデルは言わずとしれた東京国立博物館です。主人公は,地学部研究員(兼雑用)の森高弥生,いつの日か,未知なる恐竜の化石を発見して,学会の定説を覆すことを夢見る24歳です。
 ところでこの博物館,ただいま「スーパーE」という超弩級ニューロチップ人工知能を使って,白亜紀の恐竜世界を仮想現実の中で復元する試みを行っています。さらに人間の脳に刺激を与えて,その仮想世界を“体験”できるように模索中。ところが,いまだ実験段階のため,誰でも仮想世界を経験できるというわけではない。なぜか弥生だけが,その仮想世界を自由自在に動き回れるという資質を(本人の希望とは関係なく)持っている,という設定です。
 1編8〜10ページの連作短編で,「スーパーE」絡みのエピソードが半分,地学部研究員としての弥生が出会うさまざまな自然の不思議さを描いたエピソード半分といったところです。

 じつはわたしは,博物館といった類の施設が大好きなのです。先日も,鹿児島にある黎明館という博物館で開かれた,東南アジアの民俗資料の特別展にいそいそと出かけていきました。また旅行に行けば,必ずといっていいほど,その街にある郷土資料館や歴史民俗資料館に足を運びます。
 博物館に展示されたさまざまなモノたち。自然が作り出した不可思議な形をした地形や生命,あるいは人間がつくった多種多彩な道具やオブジェ,そんなものを眺めていると,いつの間にか時間が過ぎていきます。とくに太古の生物の化石や,遺跡から発見された土器や石器などは,悠久の歴史の向こう側から,偶然に偶然が重なって残ったモノたちだけに,なにやらいろいろなイメージが広がって,見ているだけで楽しいものです。

 ですからこのシリーズでも,「スーパーE」の仮想現実を舞台にしたエピソードもおもしろいのですが,それ以上に,上に書いたようなもうひとつのタイプのエピソードの方が,楽しめました。
 たとえば「第3話 化石発掘」では,デパートや駅ビルに使われている大理石に埋め込まれた化石の話が出てきます。わたしも1度だけですが,そんな化石を見たことがあり,それまで話としては聞いたことがありましたが,実見して不思議な感動をおぼえました。また「第6話 宇宙のかけら」「第7話 新七夕伝説」といった天文ネタ(わたしはかつては天文少年だったのです),「第9話 ほどほどの秘密」「第10話 大きなツノの秘密」などの進化論ネタなども,昔の「学習マンガ」みたいなノリもありますが(いまもそうなのかな?),それこそ「事実は小説より奇なり」といった感じでおもしろく読めました。
 一番気に入っているエピソードは「第18話 鳥の文化」で,この中に,熊本市水前寺公園の「ルアー・フィッシングをするササゴイ」の話が紹介されています。テレビでその巧みな「狩り」の様子を見たことがあり,心底驚いたというか,楽しいというか,なんだかどきどきわくわくしてしまいました。1度でいいから,実際にこの眼で見てみたいものです。
 ありきたりの表現ですが,やっぱり自然というのは神秘的で不思議がいっぱい詰まっていますね。

 ところで「第21話 ウナギの長旅」に書かれていたのですが,養殖ウナギの稚魚・シラスウナギのグラム単位の価格が「金」と同じって,すごいですね。

98/03/02

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