岡崎二郎『アフター0(ゼロ) 著者再編集版』1・2集 小学館 2002年

 SFコミックの歴史を語る上で,欠かすことのできない作品は数多くあると思いますが,本シリーズも,おそらくそのひとつに加えられるであろうことは,想像に難くありません。1989年から96年にかけて(だと思いますが^^;;)『ビッグコミック・オリジナル』などに不定期に掲載された本シリーズは,かつて全6巻にまとめられ単行本化されました。
 それが今回「著者再編集版」ということで,ジャンル別に再編集され,全8巻で復刊あいなった次第です。全6巻が全8巻になったのは,けっして1巻のヴォリュームが薄くなったわけではなく,各巻に「単行本未収録作品」が新たに加わったためです。「なんでこれまでコミックに収録されなかったんだ?」という疑問は残るものの,やはりファンとしては,たとえ前の版の6巻全部を持っていても,買わずにはおれません(笑)
 また,当サイトでは,すでに「お気に入りのコミック」として紹介はしていますが,読み返してみるとやはりおもしろい。もっと多くの方々に知っていただきたいという気持ちもあり,今回,改めて感想文をアップしたいと思います。

 さて第1集のサブタイトルは「ミステリーゾーンへようこそ」。作者のSF的な「センス・オブ・ワンダー」に満ちたエピソード13編を収録しています(ちなみに「ミステリーゾーン」というのは,アメリカの有名なTVドラマ「トワイライトゾーン」の,日本放映時のタイトルですね)。
 まずお気に入りは,8ページのショートショート「たった一匹」。とある島に持ち込まれた一匹の猫が,島の生態系を破壊してしまったことがあるという歴史上のエピソードを「枕」にして,宇宙飛行士と彼の“助手”である猿が,未踏査の惑星を調査するというお話に繋げていきます。「こちら側」から描かれていると思われたストーリィが,ラストで「くるり」と反転する鮮やかさが印象に残る作品です。冒頭のエピソードの持つ恐ろしさも,ラストときれいに響きあっていて,いいですね。
 「種を蒔く男」は,人類の進化に宇宙人が介入しているという,SFでは「定番」とも言えるシチュエーションですが,ハードな設定にもかかわらず,「コスモ種まき株式会社」の勤め人那由多という,どこかのほほんとしたキャラが,作品に不思議なユーモアを与えており,それがほのぼのとしたラストでも十分に活かされています。一方,「シュリーファー博士の優雅な研究」では,自分の研究のためならば,兵器開発だろうとかまわないという,ある種マッド・サイエンティストを思わせるキャラを登場させておいて,これまた最後の最後で上手にひねりを加えているところは,この作者の短編作家としての資質が発揮されています。
 このほか,“ゲルフラウ”という不可解な生き物(?)が,世界中をパニックに陥れるという「ほうき星翔ける街角」は,人間の貪欲さに対するさりげないアイロニィが感じられますし,また異星人との「ファースト・コンタクト」を「料理人」という,思いがけない視点から描いた「最高の晩餐」も好きな作品です。「語れよ真空の中で」のコミカルさも,この作者の魅力のひとつでしょう。
 なお「単行本未収録作品」は2編−「永遠(とわ)の問いかけ」「いつか聴いた鐘の音」です。前者は哲学的な問いから壮大なイマジネーションが楽しめる作品,後者は,SFというよりファンタジィに近いほのぼの系のエピソードとなっています。

 「犯人は誰だ!?」がサブタイトルとなっている第2集は,ミステリ系のお話を集めています。9編中4編が未収録作品ということで,ミステリ者としてはうれしい限りです。
 オープニングの「三月(やよい)の殺人」は,本シリーズ中,一番のお気に入りで,こちらですでに紹介しています。「ペルセウスの帰還」は,社長を追い出し会社を乗っ取った常務派の「弱点」を探す主人公を描いています。この作者の持ち味であるユーモア色を極力抑えた,緊迫感あふれる企業サスペンスに仕上がっていて,シリーズ中ではけっこう異色な手触りになっていると思います。「誰が森を燃やしたか?」は,タイトル通り,大規模な山火事の原因が自分たちにあるのではないかと恐れおののく男女の心模様を描いた心理サスペンス。真相そのものはさほど意外性はないものの,むしろその上での意想外な事態がもたらすハートウォームな着地が鮮やかです。
 未収録作品の中で,好きなのは,一種の暗号ミステリである「夢は春とともに」。古本屋で偶然手に入れた古書を手がかりとして,「宝探し」に赴く女子大生が主人公です。暗号を読み解いて,「宝物」を探し出すところは,比較的オーソドクスなのですが,これまた最後に伏線の効いた鮮やかなツイスト,そこにもうひとつ思わぬ“真相”を提示するところは,前出「三月(やよい)の殺人」で見せた作者の手腕が遺憾なく発揮されています。「白の回想」は,行方不明になった調査船,たったひとり生き残った男は記憶喪失にかかっており…という,まさにミステリの王道を行くような魅力的なオープニング。いったい船で何があったのか? 男の記憶に隠されたものとは?という謎を求心力とするスピーディなストーリィ展開が楽しめ,また海底での死闘もスリルに満ちています。
 同じく未収録作品「楽園の問題」は,どちらかというと2集より1集の方がフィットするような内容ですが,途中途中に挿入される謎の人物の独白が,ストーリィをミステリアスなものにしています。それにしても「この人」とその「助手」,もしかすると本シリーズの「隠れた名バイ・プレイヤー」なのかもしれません(笑)

02/08/07

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