岡崎二郎『アフター0(ゼロ) 著者再編集版』5・6巻 小学館 2002年

 第5巻のサブタイトルは「人類 新 進化論」。「進化」というモチーフは,SFでは定番ともいえるもので,この作者もまた『国立博物館物語』3巻でユニークな進化論を開陳しています。本集は,さまざまな「進化」を素材としたエピソードを中心にまとめられています。
 「あの世の方程式」は,「知識の進化」と「心の進化」が必ずしも一致しないという古典的なネタを,一風変わったアプローチで切り取ってみせた作品です。マルコメ味噌のCMみたいな主人公がユーモラスですね。生物界における「進化」を巧みに人間界に取り入れた作品として「大きな角を持つ男」「未来の種馬たち」があります。とくに前者は,近年さまざまなスキャンダルで揺れる日本企業への強烈なアイロニィになっていますね。
 一方,「幻の点景」で扱われた「進化」は,生命のそれではなく,「絵が進化する」という,なんとも独創的な着眼点に立っています。しばしば「幻の天才」「不遇の天才」という作家さんが,芸術界にはおられますが,もしかすると,彼らは「この手」を使っていたのかもしれません(笑)
 さてSFで「進化」を扱う場合,もっともよく見られるモチーフが「機械は人間に進化できるか」というものです。「マイ・フェア・アンドロイド」は,完璧までに人間に近いソフトで動くアンドロイドアイリスが登場します。一見,不良品にしか見えない,アイリスのコピーアイリス2が,まるで「人間」のような情緒豊かな反応を見せ,「完璧さ」よりも「不完全さ」が,主人公にとって魅力的なものになっていくというストーリィ。この作者お得意のサスペンスたっぷりの展開の末に,自己犠牲さえいとわないアンドロイドと欲望のために冷酷になる人間とを対比させることで,「人間らしさ」とは何かと問いかけています。
 本巻の「単行本未収録作品」は,「会社夜話」。躍進著しい会社に隠された秘密とは?という内容。諸星大二郎の初期短編にありそうなモチーフですが,そこはそこ,この作者のことですから,不気味さはあまり感じさせず,むしろ「奇妙さ」を上手に醸し出しています。

 第6巻は「ファンタジックワールド」。まぁ,そのまんまです(笑)
 やはりこの巻で好きなのは「お気に入りのコミック」でも紹介している「ショートショートに花束を」です。その着眼点−核シェルターの男+事故+ショートショート−と,発想の転換はピカイチです。同じショートショートですが,アダルト・テイストを持った(阿刀田高あたりが書きそうな)作品として楽しめるのが「願かけのバー」。1000万円払えば夢がかなうというバーで,かつてひとりの女性から依頼があり…というお話で,「恋の楽しみ」から,思わぬエンディングへの話の転がし方は秀逸。
 それから「最後の雪女」「雪に願いを」「かまくらの夜」「スノードリーム3部作」(<このタイトルは勝手につけたものです^^;;)も,けっこうお気に入りの作品です。雪女の老婆の「お早いお帰りで〜」のセリフに笑ってしまいますし,自分の思うがままの形に雪を作れるというファンタジックな発想もいい,オーソドクスながら,ハートウォームなラストの「かまくらの夜」も捨てがたいですね。
 あとは「800年のメッセージ」。「時を超えた悲恋」という,古典的といえば古典的なモチーフなのですが,SFと和歌というミスマッチが,「800年」という時の距たりを十二分に表現しています。
 単行本未収録は,「光の楽園」「反撃の負」。ともに「ファンタジックワールド」というサブタイトルとはそぐわない感じもしますが,「もうちょっと肩の力を抜こうよ」といったテイストがいいですね。とくに「反撃の負」は,「会社の中で一見無意味に見えるものがじつは…」という,この作者お得意のパターン。河馬みたいな顔をした,いかにも「人はいいけど無能です」といった感じのキャラがほほえましいですね。

02/10/09

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