早川書房編集部編『幻想と怪奇 2』ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1974年

 11編を収録したアンソロジィです。『1』と同様,ハヤカワ文庫版の『幻想と怪奇 2』とは,内容が異なります。

エドワード・ルカス・ホワイト「ルクンド」
 アンソロジィ『怪奇小説傑作集2』(創元推理文庫)に「こびとの呪」というタイトルで収録されています。感想文はそちらに。
アンブローズ・ビアース「マクスンの人形」
 「機械に意識はある」…友人はそう断言するが…
 近代に入り「道具」は「機械」へと進化しました。スイッチを押すと「勝手に」動きだし作業する「機械」に,人は,かつて自然の中に感じていた「異形に対する不気味さ」を付与したのかもしれません。「人工知能」という幻想と怪奇は,すでにその頃から始まっていたのでしょう。
W・W・ジェイコブス「猿の手」
 友人が持ってきた「猿の手」は,3つの願いを叶えるという…
 言わずと知れた古典的傑作。今読み返しても,思わせぶりなオープニング,皮肉な「願いの成就」,哀しみの中で醸される老夫婦の狂気,クライマクスの緊迫感,そして余情あふれるエンディングと,傑作の名にふさわしいことを実感します。
M・R・ジェイムズ「人形の家」
 『M・R・ジェイムズ怪談全集 2』(創元推理文庫)に「呪われた人形の家」というタイトルで収録されています。感想文はそちらに。
H・P・ラヴクラフト「ダンウィッチの怪」
 ダンウィッチ村に生まれた奇怪な子ども。彼が引き起こした不気味な事件とは…
 前半の,婉曲的な描写の積み重ねによる「不安」の盛り上げ方,中盤の事件を契機として,スピード感を増していくストーリィ,また電話という,おそらく当時としては「文明の利器」であったろうメディアを,巧みに用いて産み出される緊迫感,第三者の視点を設定することで,よりミステリアスに描き出されるクライマクスなどなど,この作者が,すぐれたエンタテインメント作家であることを再認識させられる作品です。
メイ・シンクレア「胸の火は消えず」
 最初の恋人を事故で失って以来,彼女は…
 執着を残した霊はこの世に留まる,という発想は,洋の東西を問わず,根強くあるのかも知れません。しかし,本人さえも自覚していない(したくない?)執着ゆえに無限の「監獄」へと導かれてしまう主人公の姿は,痛々しく無惨でなりません。
サキ「開いた窓」
 少女が語る,窓が開いたままの理由は…
 これまたあまりに有名な1編。ラストの少女が語る「エピソード」によって,少女の性格をじつに巧み表しているところが,この作者のお話作りの上手さでしょう。
ジョン・K・バングス「ハロウビー館のぬれごと」
 ハロウビー館には,毎年クリスマス・イヴにずぶ濡れの女の幽霊が現れ…
 館の主人と幽霊との,「あの手この手」の「対決」が楽しいユーモラスな作品です。魔夜峰央『パタリロ!』あたりで翻案されそうな内容ですね。
ジョン・コリア「ビールジーなんているもんか」
 息子は「ビールジー」という友人がいると言うが…
 ホラーの素材の定番とも言える「子どもの空想の友人」です。しかしこの作品の面白味は,最初は「息子は友人」などと言いながら,息子の言葉にしだいに苛立ち,ついに「強権」を持ち出す父親の「いやらしさ」が,上手に表現されている点にあるかと思います。
ジョン・スタインベック「蛇」
 アンソロジィ『恐怖と幻想 第3巻』(月刊ペン社)収録作品。感想文はそちらに。
トルーマン・カポーティ「ミリアム」
 偶然知り合った少女は,ミリアムと名乗った…
 この作品も,アンソロジィでしばしば見かけますね。少女が本当に存在しているのかどうか,も含めてのミリアムの不可解さと,そんな彼女に恐怖を感じながらも,どこかアンビヴァレンツな感情を抱く主人公の孤独さとのバランスが,絶妙な作品です。

04/09/05読了

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