中田耕治編『恐怖の1ダース』講談社文庫 1980年

 タイトルそのものです(笑) サスペンス&ホラー短編12編を収録しています。

コーネル・ウールリッチ「たすけてえ!」
 クラスメイトの少女を連れ去った男を,“ぼく”は見たんだ…
 主人公が,肉体的・社会的制約のために危機的状況に陥るという設定は,ブリジット・オベール『森の死神』を最たる例として,サスペンスの典型のひとつですが,主人公が「子ども」であるということも,それと同じ趣向であるといえましょう。ラストにもう一工夫ほしいところですが(ネタばれ>子どもだけで脱出するか,あるいは大人たちが気づく伏線を張っておくか),緊迫感がたっぷり楽しめる作品です。
E・F・ボズマン「白い道」
 アンソロジィ『イギリス怪奇幻想集』(現代教養文庫)所収。感想文はそちらに。
エリザベス・テイラー「プア・ガール」
 家庭教師のミス・チャスティは,その部屋にはいると,自分自身でなくなるような気持ちになり…
 それは「憑依」だったのでしょうか? それとも,もしかすると来るかもしれない「未来」を「今」によって押しつぶされた哀しい幻影だったのでしょうか? タイトルの「プア」とは,「かわいそう」という意味と「まずしい(身分の低い)」という意味が重ね合わされているのでしょう。
ウォルター・デ・ラ・メア「謎」
 アンソロジィ『恐怖の探究 怪奇幻想の文学IV』(新人物往来社)に「なぞ」という邦題で所収。感想文はそちらに。
アルジャノン・ブラックウッド「呪われた島」
 湖に浮かぶ孤島で,2週間ほど,たったひとりで過ごすことになった“わたし”は…
 主人公が“経験”したことはいったい何だったのか? その意味も理由も明確ではありませんが,暗闇の中でギリギリと高まる緊張感,稲妻の光に浮かび上がる奇怪な光景などなど,シーンの鮮やかさが印象に残る作品です。
ラフカディオ・ハーン「雪おんな」
 あまりに有名な1編。井上雅彦監修のアンソロジィ『雪女のキス』に感想文を書いています。ちなみにそちらは小泉八雲名義です。
ロス・マクドナルド「ショック療法」
 別荘へ向かう若夫婦の間で交わされた会話とは…
 ハードボイルド・ミステリにおいて,「会話」が非常に重視されていることを考えれば,ほぼ会話のみによって成り立っている本作品が思いつかれるのも,自然といえましょう。落とし所は見当がつくものの,会話のみによって,「語られざる裏側」を描出していく手法はさすがです。
マーガニタ・ラスキー「塔」
 若妻は,引き寄せられるようにして,その「塔」へと登る…
 「なにゆえに彼女が?」という点を,あくまで暗示・ほのめかしで描いているところが個人的に「ツボ」です。そして「塔というのは登るもの」という発想を逆手にとってのエンディングも秀逸です。本集で一番楽しめました。
ウィリアム・ホープ・ホジスン「幽霊船の謎」
 タラワック号が発見した幽霊船の正体とは…
 幽霊船というスーパーナチュラルな方向へ転がりそうな素材を,一転,フィジカルな,しかし現実とは思えぬ恐怖へと転化させていくストーリィが楽しめます。それにしてもサルガッソー海域って,懐かしいです。子どもの頃に読んだ「世界の怪奇実話」といった類の本に,よく出てきました。
ロバート・ブロック「ハリウッドの恐怖」
 ハリウッドで,10年20年とスターで居続けるための秘訣とは…
 フィクションにおいて,スーパーナチュラルな怪異を想像させる有力なもののひとつは,人間のあくことのない欲望なのでしょう。そして,その「欲望の在所」は,その人間を取り巻く環境によって様々なのだと思います。
フィリップ・K・ディック「探検隊帰る」
 アンソロジィ『影が行く』(創元推理文庫)所収。感想文はそちらに。

04/05/02読了

go back to "Novel's Room"