田中芳樹『クレオパトラの葬送 薬師寺涼子の怪奇事件簿』講談社ノベルス 2001年

 「あたしとアメリカ軍のやることに,証拠なんていらないわ」(本書 涼子のセリフ)

 日本に亡命中の南米某国の元大統領が,豪華客船“クレオパトラ8世”号に乗って香港へ向かった。彼の動静を監視するという任務を与えられた“ドラよけお涼”こと薬師寺涼子警視と“私”泉田準一郎も同船する。お涼の行くところ怪奇な事件が起こらないはずがない。船内のマジック・ショーの最中,マジシャンが観客の目の前でバラバラ死体と化した! 

 さて『魔天楼』『東京ナイトメア』『巴里・妖都変』に続く「ドラよけお涼」シリーズの第4作(講談社ノベルスだと第3作)の舞台は,豪華客船“クレオパトラ8世号”です(なんで「8世」なのかという解説,「なるほどなぁ」と勉強になりました(笑))。で,衛星回線による外部との交信がなぜか途絶された「クローズド・サークル」「洋上の密室」です。その中でバラバラ殺人やら密室殺人やらが発生しますが,もちろん本格ミステリではないので,トリックなどを期待してはいけません(笑) 例によって,この世ならぬモンスタにとって,小賢しいトリックなど不要ですし,お涼にしても,そんなことはハナから相手にしていません(笑)
 が!!
 そんな風に「これはミステリではない」という高をくくった気持ちで読んでいると,ラストで思わずのけぞります。じつに「お涼らしい」人を食った大仕掛けが用意されていて,「え(@o@)」と思ってしまいました。このあたり,やはり『幻影城』出身作家ですね(<意味不明^^;;)。

 そして今回のお相手というか,ターゲットというか,犠牲者というか(笑)は,南米ラ・パルマ共和国の元大統領で,日本に亡命中のホセ・モリタ。もう,あからさまにペ○ーフ○モ○元大統領のパロディですね^^;;(あの人も登場したときは格好良かったけど,最後はボロボロのメロメロでしたからねぇ)。もう徹底的なまでにカリカチュアされていて,とくに彼の義弟ツガ「テロリストハミナゴロシダ!」のセリフは,ブラックな笑いに満ちています。もちろん,冒頭のような過激なセリフを振り回すお涼に,ふたりとも粉砕されてしまいます(笑)。
 さらに返す刀で,モリタ元大統領と癒着した日本の政治家や官僚たちを滅多切りにした上,おまけに「改革は嫌いだけど改革者は好きな日本人」や「熱狂すると歯止めのきかない日本人」とか,と容赦ありません。時節柄,アメリカ同時多発テロや,その後のアフガニスタン空爆のネタもしっかり盛り込まれています。やはりお涼の口から連射される毒舌こそが,このシリーズ最大の魅力といえましょう。ストレス発散にはもってこいです。
 しかし,これまた例のごとく,ストレスを溜まくっているのが,今回「マネージャー」という新しい肩書きも加わった(笑)“私”泉田準一郎です。ですが,さすが4作目になると,人間ができてきたというか,お涼の過激のセリフを,室町由紀子警視に「翻訳」して伝えたり,お涼のやんわりとたしなめる一方で,「ここぞ」というときは巧みに焚きつけたりと,なかなかソツがありません(笑) 部下を作るのは上司,というわけですね^^;;

 ところでツッコミをひとつ。今回も垣野内成美が挿画を描いていますが,その中で泉田がお涼を肩車するシーン。その絵では,お涼は裸足なんですが,文章ではミュールを履いていることになっています。個人的には裸足の方が色っぽくていいのですが……(=^^=)

02/01/01読了

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