田中芳樹『東京ナイトメア 薬師寺涼子の怪奇事件簿』講談社ノベルズ 1998年

 一流ホテルの結婚式場に,空から死体が降ってきた。その上空にはなんと有翼人! そして逃げ込んだ先は財務省三田分室。私利私欲に走る官僚たちはなにを企んでいるのか? 「ドラよけお涼」こと警視庁刑事部参事官・薬師寺涼子が,下僕の(笑)泉田準一郎警部補を引き連れて,モンスタの潜む“万魔殿”へと突入する! 彼らの前に現れた敵とはいったい何者?

 超がつくくらいの美人でナイス・バディ,頭も切れて,年収3億という大金持ちながら,その傍若無人,極悪非道の性格の悪さから,「ドラキュラもよけて通る」といわれる薬師寺涼子シリーズの第2弾です。
 『魔天楼』の感想文でも書きましたが,このシリーズの楽しさは,世間で通用している権威やお偉いさんを,歯に衣着せぬ涼子の毒舌で,思いっきり笑いのめすというところにあると思います。この作品では,財務省の高級官僚がターゲットです。「財務省」というのは数年前まで「大蔵省」と呼ばれていた,という設定です。要するに,一連の大蔵官僚の汚職事件に対する,作者の痛烈な皮肉なのでしょう。
 そういう性格の作品ですから,「ストーリィ展開がうまくいきすぎる」とか「モンスタが出てくるヒツゼンセーがない」とかいうようなことは,いっさい考えてはいけません(笑)。ひたすらスピード感ある展開に乗っかって,涼子の毒舌と破壊的パワーの痛快感,爽快感(と泉田のボヤキ)を楽しむのが,本シリーズの正しい読み方です(をいをい・・・)。

 さて今回,株が上がったのが,なんといっても,「部下。奴隷。家畜。助手。弟子。忠臣。執事。祐筆。副官。」。涼子の下,ありとあらゆる肩書を身につけた泉田くんでしょう。涼子の強烈なキャラクタのせいで,あまり目立たないようですが,どうやら彼,警察官としてなかなか優秀らしいのです。某悪役に言わせると,「泉田クンは身長,射撃,柔剣道,どれをとってもSPとしての水準をクリアしている」そうです。実際,悪役相手に大立ち回りのすえ,打ち勝ってしまいます。
 さらにさらに,涼子に「ごめん」と言わせてしまう(?)という快挙(笑)をあげるやら,「お由紀のやつ,泉田クンのいうことなら聞くんだから!」と,ヤキモチ焼きとも思える発言さえさせてしまいます。でもって,涼子の宿命のライバル,犬猿の仲,室町由紀子警視もまた,泉田くんになにやら含むモノがありそうな気配・・・。う〜む,世に恐ろしい三角関係ですね^^;;
 この3人に,ますます危なくなってきた岸本くんを加えて,4人チームが,今後シリーズのメインキャラクタになってくるんでしょうね。それにしても,省略の多い,お涼とお由紀の「舌戦」の全貌を一度聞いてみたいものです(笑)。

98/10/12読了

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