ブリジット・オベール『ジャクソンヴィルの闇』ハヤカワ文庫 1998年

 7月4日の独立記念日を目前に控えた週末,ニューメキシコの田舎町ジャクソンヴィルで少女の惨殺死体が発見された。それがすべての始まりだった。そしてつぎつぎと起こる異常な殺人事件。町の墓地を中心に散らばる現場はいったいなにを意味するのか? 異形のものに襲われた町は崩壊への道を歩み始める・・・

 手紙だけで構成されたトリッキィなミステリ『マーチ博士と四人の息子』,全身麻痺の女性を主人公としたサイコ・サスペンス『森の死神』,サスペンスフルに展開するスパイ・スリラ『鉄の薔薇』・・・さまざまなタイプの作品を描いてきたこの作者の今回の作品は,ストレートなホラーです。それも映像的なシーンをつぎからつぎへと重ねることでスピーディにストーリィを展開させる,映画を彷彿させる内容のホラーです。展開の仕方としては少々陳腐なところもありますが,とにかくぐいぐいと読ませてしまうところはすごいです。

 で,「お題」はというと,ゾンビです。地中から蘇る死者,腐乱した肉,のぞく白骨,わきだす蛆虫,生者を見れば襲いかかる,オーソドックスなゾンビです。それだけでも十分に気持ち悪いところへ持ってきて,おまけにゴキブリ付きです(笑)。前にも書きましたが,わたしはこういった小さな虫がうじゃうじゃ出てくるのは,「うぎゃぁ!」です。ましてや,肌の下で蠢き,皮膚を食い破ってゴキブリが顔を出すシーンなぞは,もう躰中が「おぞおぞおぞおぞ」としてきて,鳥肌がたってきます(でも,アメリカ先住民の伝説で,ゴキブリは「虫ではなくて夜の斑点だ」というのは,おもしろかったですね。それとゴキブリが触覚を動かして「星条旗よ永遠なれ」を「歌う」ところは,痛烈な皮肉みたいで,思わず笑っちゃいました(^^ゞ)。

 さて先に「オーソドックスなゾンビ」と書きましたが,作者は,「人間vsゾンビ」という単純な図式に終わらせることなく,もうひとつの“仕掛け”を用意しています。そこらへんは,やはりひねくれ者(^^;;)のこの作者らしいところです(笑)。その“仕掛け”がストーリィにサスペンスを与えています。とくに主人公のひとりの設定とも深く関わっているだけに,じつに効果的です。うまいですね。
 ただラストで明かされる,この“事件”の真相というか,背景というか,そこらへんはやや不鮮明な感じが残ってしまって,ちょっと残念です。なんだか「伏線引きまくり」という雰囲気がしないでもありません。巻末の「解説」によれば,作者はこの作品の続編を執筆中(構想中?)とのこと。はたしてどのような内容になるのでしょうか? 楽しみです。

99/02/14読了

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