和田慎二『呪われた孤島』集英社 1975年

 日本海に浮かぶ孤島に,待望の医師がやってきた。だがその女医は,島に棲む猛毒の蜘蛛と,その毒に対する唯一の薬“八千代菊”を利用して,島を支配するようになる。彼女によって網元である父親を殺された小座倉曜子は,島民の協力で島を脱出,医師として戻ってくることを誓う・・・。

=前回までのあらすじ(笑)=
 しばらく和田慎二の作品から離れていたyoshirは,『銀色の髪の亜里沙』を久しぶりに読んだことから,“和田慎二熱”にとりつかれる。しかし『怪盗アマリリス』『少女鮫』といった最近の作品だけでは満足できず,1970年代に発表された作品をも読みたいという,無謀な妄想に取りつかれてしまう。おりしも織里さんから送っていただいた『超少女明日香』は,さらに火に油を注ぐ結果となった。そんなある日,yoshirは新しい古本屋を発見,何者かに吸い寄せられるようにして入っていった彼がそこで見たものは・・・・・

 というわけで(笑)「呪われた孤島」です。
 だいたいのストーリィは覚えていたのですが,いやはや,これほどサスペンスフルで迫力のある作品であるとは,不覚ながら忘れていました。とくに前半部がいいですね。島に来た女医・日下部亜矢が,最初は治療代の借用書を盾にとり,そしてつぎには“八千代菊”のエキスを独占することによって,島を支配していくプロセスが,なんとも凄まじいです。
 この手の,いわば復讐劇的な物語では,敵役が,悪党であれば悪党であるほど,憎々しければ憎々しいほど,話が盛り上がりますが,その点,日下部亜矢の悪行三昧は,じつに堂に入ってます(笑)。たとえば治療代の代わりと称して集めた八千代菊を燃やすシーンは,
「炎の中で悪魔の影(シルエット)がにやりと笑っていた。
それはまるで呪縛から解きはなたれた悪魔のように見えた」
というナレーションとあわせて,鬼気迫るものがあります。
 それと前半部のクライマックス,島を脱出しようとして,亜矢に捕まってしまった曜子は,足に重石をつけられ,海に突き落とされます。しかし仲間の黒岩が助けに来てくれるはず,曜子は海の中で彼の姿を見かけますが,彼はすでに・・・,というシーンです。ちょうど掲載時の前編ラストの「引き」の部分ですが,う〜む,盛り上げ方がじつに巧い(笑)。
 ただ後半になるとちょっとバタバタする感じで,盛り上がりに欠けるきらいがあるのが残念です。曜子側の計画がしょうしょう上手く行き過ぎる感じで,もう少し,日下部亜矢の反撃があればもっとおもしろいのでしょうが・・・。
 それでも最後の亜矢vs曜子の戦いで,エキスを浴びた亜矢の身体に這い上がってくる毒蜘蛛のシーンは,こういった虫やら小動物が集団になっているのを見ると,「勘弁してくれ!」というタイプのわたしにとっては,鳥肌立つほど心底怖かったです(笑)。

 本書にはもう1編,「快盗アマリリス」が収録されています。白泉社版の連載『怪盗アマリリス』の元ネタになった作品です。こちらの椎崎奈々は,寮に住む寄宿生ですが,退学になって家に戻ると,町の住民の様子がおかしい,スリムだったママ(もと怪盗“白水仙”)もこってりとぷっくり脹らんでいる,どうやら原因は信楽食品がつくる食べ物にあるらしい・・・,というお話(ああ,よかった,記憶に間違いはなかった(笑))。
  前半のコメディっぽい展開は,白泉社版『アマリリス』と似ているのですが,後半はなかなかハードな展開を見せます。むしろ,その落差がこの作品のおもしろさなのかもしれません。「太る」という,一見日常的な悩みを巧く使っているなぁ,という印象を持ちました。
 それにしても,この事件で業界から姿を消した“信楽コンツェルン”は,不死鳥の如く,あちこちで甦りますね(笑)。

 ところで,「懐かしいから」というわけでなく,和田作品は,公平に見て,1970年代のものの方が,コンパクトにまとまっていて,おもしろいんではないでしょうか?

98/02/14

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