和田慎二『超少女明日香』白泉社 1995年

 さて「明日香シリーズ」の第1作です。といっても,かつての集英社マーガレット版に,書き下ろしの「メイキングオブ『超少女明日香』」を加えて,白泉社が改めて出版したものです。
 よくメールをくださる織里さんが,「2冊持ってるから」ということで,1冊送ってくださいました。ううっ,このせちがらい世の中に・・・(以下同文)。織里さん,多謝!

「超少女明日香」
 飛騨の山奥から出てきた砂姫明日香は,お手伝いとして田添家に勤めることになった。だが,自然の力に守られた彼女の真の目的は,田添家に対する復讐だった・・・。
 じつを言うと,「明日香シリーズ」のなかで,この最初のエピソードが一番好きです。とくに,明日香の闘う敵役が,へんに大がかりでないところがいいですね(笑)。芙蓉夫人と,そのブレーン集団“協奏曲(カルテット)”。和田作品の敵役というと“信楽翁”が定番(?)ですが,この芙蓉夫人もなかなかいい味だしています。信楽翁みたいに,知らん顔して別のシリーズに顔を出してくれるとうれしいんですが・・・。明日香の“協奏曲”分裂作戦なんてのも楽しめます。
 それとお気に入りのシーンはというと・・・。田添建設の株を奪うため,芙蓉夫人は,田添家の長女・悦子を誘拐します。一也は悦子を救い出そうと,彼女が囚われている別荘に向かいますが,周囲は高圧電流が流れる鉄柵で守られ・・・。そこに現れた明日香は,無防備にその鉄柵に手をかけますが・・・,というシーンです。シリーズ最初の記念すべき変身シーンです。「メキッ」という音ともに,鉄柵をこじ開ける明日香の姿は迫力があります。こういったシャープなシーンって,発表当時(初出1975年頃),少女マンガではあまりお目にかかれないものだったのじゃないかと思います。
 読んでいて気づいたんですが,最近の和田作品に比べる,コマ割りが凝ってますね,この頃。
「オレンジは血のにおい」
 失踪した小沼麗子の行方を探すため,小沼家の人々ととも,麗子の留学先・イタリアへ向かった四宮淳子。彼女を待ち受けていたのは,恐るべき連続殺人事件だった・・・。
 さてこちらは「神恭一郎もの」です。失踪した女性を探す過程で,つぎつぎと小沼家の人間が殺されていきます。ロンドン,パリ,スイスと,その舞台はヨーロッパ各地に広がります。そして現場付近で目撃される“小沼麗子”の姿。連続殺人犯は彼女なのか,それとも彼女は何者かに操られているのか,といったサスペンスものとして定石を踏んだ佳品じゃないかと思います。ミステリとしての破綻もないようですし(<失礼!)。ロンドン塔での惨殺シーンや,ホームズみたいな格好した神など,作者も楽しんでいるようです(それと「河馬あきら」!(笑))。ラストもケレン味たっぷりで見せてくれます。
 それから,神恭一郎は,以前スコットランド・ヤードに所属していたという設定だったのでしたね。だから拳銃の所持を許されている,と。日本で銃を民間人に持たせるための,作者の苦労が忍ばれます(笑)。そういえば「神恭一郎白書」という短編(?)もあったような。『スケバン刑事』の第1巻だったでしょうか・・・(記憶あやふや)。
 ところで,いくつかのシーン(コックのニコルのエピソードとか,淳子に絡む酔っぱらいとか)は,柴田昌弘がアシスタントをしているのではないでしょうか? 当時,少女マンガ界では数少なかった(いまでも少ないか?)男性マンガ家同士ということで,仲がよかったようですから,その関係でしょうか。そうそう明日香とランの競演作品というのもありましたね。

 う〜む,改めて読むと,この1冊,和田作品としては,(少なくとも個人的には)かなり上位に位置づけられる2作品を収録しているのではないでしょうか。

「メイキングオブ『超少女明日香』」
 「明日香」誕生の裏話でありますが,内容はともあれ,一番最後の「『超少女明日香』1P予告」というのは,なかなかいいですね。予告編と本編でキャラクタが変わってしまうのは,よく見ますが,これもそんなところ。「田添一也」の設定はずいぶん違っていたようです(笑)。

98/02/11

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