和田慎二『銀色の髪の亜里沙』集英社漫画文庫 1977年

 「言霊(ことだま)」というものは存在するのでしょうか?
 以前,しばしばメールをくださる織里さんと,光瀬龍&萩尾望都の『宇宙叙事詩』が話題になってすぐ,本屋で,その文庫版の上巻を発見しました。先日,ふーまーさん@電悩痴帯のチャットで「『銀色の髪の亜里沙』がもう一度読みたい!」と叫んだ(?)ところ,数日ならずして古本屋で本書を入手することができました。う〜む,今度はなにを叫んでみましょうか(笑)。

 ところで,本書の奥付を見ると「1977年初版」。残念ながら初出データは掲載されていませんが,20年以上前,もしかすると四半世紀前の作品です。和田慎二というと『スケバン刑事』ばかりが有名になってしまいましたが,それ以前から,本書や『愛と死の砂時計』『大逃亡』『呪われた孤島』『左の眼の悪霊』といったサスペンスを多数手がけており,サスペンス少女マンガの草分け的存在です。いまでは手に入りにくい作品も多くなってしまい,ちょっと残念です。最近は,マンガの原作もされておられるようですね。

 さて,表題作「銀色の髪の亜里沙」は,親友と信じていた3人の同級生に裏切られ,両親を殺されたうえ,みずからも「吐竜窟」という洞窟に突き落とされた少女・本条亜里沙の復讐の物語です。
 物語は大きく前半と後半に分けることができます。前半は,陥れられた主人公が,奥深い洞窟の中で生き延び,脱出するまで。そのクライマックスはやはり脱出シーンでしょう。光の射し込まない洞窟に住む動物たちは,みな白色化しています。しかしときおり見かける黒いサンショウウオ。それはきっと外界から来ているに違いない,そう考えた亜里沙は,20mの逆流を泳ぎ切り,ついに洞窟脱出に成功します。ここらへんの展開は緊迫感があります。
 後半では,洞窟での生活のため,銀色の髪と化した亜里沙の復讐が始まります。裏切った同級生のうち,学園一の秀才・青木恵子,超高校級の陸上選手・川崎マサコのふたりを,それぞれの得意分野で打ち負かし,彼女らを破滅へと追い込みます。ここらへんは,「ちょっとうまくいきすぎるなぁ」という感じがしますね,残念ながら。もう少しページ数がほしいところです。
 そして,最後に残った敵・信楽紅子親子との対決! 幼い亜里沙が友情の証として紅子に贈った仮面。紅子はその仮面を使って女優としての一歩を踏みだそうとしています。亜里沙はその仮面に仕掛けを施そうとして,信楽親子に捕まってしまいます。しかし,舞台が成功裏に終わったとき,亜里沙の復讐は成し遂げられたのです・・・。冒頭に出てきた“友情の証”としての仮面を,復讐の道具として使うあたり,なかなか巧いですね。それにしても,この復讐方法,凄まじいものがあります。楳図マンガに出てきそうな感じです。もっとも楳図マンガだったら,最後の最後まで書くのでしょうが・・・。
 20年以上前の作品ですから,ストーリィ的にも,表現的にも,多様化し,洗練された現在の少女マンガから見れば,垢抜けない部分,もの足りない部分があるのは仕方ありませんが,「少女マンガ若葉マーク時代」の懐かしい作家さんのひとりですので,十分堪能できました。

 この本には,そのほかに「お嬢さん社長奮戦中!」「冬の祭」「パパ!」の3編が収録されています。「冬の祭」は,作者の『熊さんの四季』シリーズに通じるような“ほのぼのカントリィ・ライフ”ものと,サスペンスものとが融合したような作品で,けっこう気に入ってます。

 それにしても,和田作品の悪役は,やっぱりいつも「信楽」ですね。『スケバン刑事』では,信楽老は完全に“妖怪化”してしまいましたが,この頃はまだ普通の人間です(笑)。

最後に・・・・・・
「今度は『左の眼の悪霊』が読みたい!」
(さて,言霊の力は如何?(笑))

98/01/24

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