W・H・ホジスン『夜の声』創元推理文庫 1985年

 「海はあらゆる神秘のふるさとだ」(本書「石の船」より)

 船員経験のあるこの作者ならではの海洋怪談7編プラス1編を収録した短編集です。巻末に長谷川晋一による「ホジスンの生涯」という短文が入っています。なかなかアクティブな人生を送ったようですね。40歳で死亡(それも戦死!)しているのには驚きました。

「夜の声」
 少なくとも日本では,この作者の代表作と呼べるでしょう。アンソロジィ『恐怖と幻想 第2巻』「闇の海の声」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「熱帯の恐怖」
 熱帯の海で,“わたし”たちの船は,突如,化け物に襲われ…
 まっすぐ直球のモンスタ・ホラーです。スピード感あふれるオープニング,「音」を効果的に用いて緊迫感が盛り上がる中盤,クライマクスでの死闘,と,ホラー短編の「基本」をしっかりとおさえた佳品です。
「廃船の謎」
 アンソロジィ『恐怖の1ダース』「幽霊船の謎」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「グレイケン号の発見」
 “わたし”は,恋人を海で失った友人とともに船旅に出るが…
 海洋奇談に定番なアイテムが満載の,まさに「王道」とも言える海洋奇談です。それにしても,この作者,クライマクスへのストーリィ展開の仕方が,じつにうまいですね。
「石の船」
 大海の上で聞こえてきたのは,小川が流れるような音だった…
 海で聞こえる“小川の音”,ボートの行く手を遮る“ウナギ”の大群,そして船員たちの前に現れた“石の船”と,オープニングからのミステリアスでスリルに満ちたスピード感ある展開が見事です。そしてなにより驚いたのがラスト。今の目からすれば,やや難がないわけではないにしろ,主人公たちの経験した“怪異”を,鮮やかに「理」に収束させる手腕がすばらしいですね。
「カビの船」
 アンソロジィ『怪物の時代 怪奇幻想の文学V』「難破船」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「ウドの島」
 ジャット船長とともに上陸した島で,少年が目撃したこととは…
 悪魔崇拝の島,奇怪なモンスタ,財宝,囚われの美女…と,海洋冒険譚のアイテムがてんこ盛りの作品です。最後の,助け出した女性の描き方が,古典的な「文明vs野蛮」という図式から逸脱していて,興味深かったですね。
「水槽の恐怖」
 町はずれにある水槽で,立て続けに奇怪な殺人事件が…
 本集で唯一「海洋もの」でない,いわゆる「怪奇ハンターもの」です。真相はすぐに見当ついてしまいますが,密室状況での殺人,途中での「犯人」の逮捕,そしてクライマクスでの活劇と,ミステリのフォーマットをしっかりと踏襲している展開が楽しめます。

04/09/20読了

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