逢坂剛『よみがえる百舌』集英社 1996年

 かつて倉木美希,大杉良太が巻き込まれ,闇の中に葬り去られた稜徳会事件,来迎会事件の関係者がつぎつぎと殺される。首筋を千枚通しでつかれ,衣服からは百舌の羽が・・・。稜徳会事件で死んだはずの殺し屋・百舌がよみがえったのか? 夫の遺志を継ぐべく特別監察官となった美希と私立探偵・大杉が調査を開始すると,急速に彼らに接近してくる刑事・紋屋貴彦と,新聞記者の残間龍之輔。ふたりの真意は奈辺にあるのか? いったい「よみがえった百舌」とは何者なのか,そして百舌を背後であやつる“バードウォッチャー”とは? ふたたび浮上する治安警察構想に対して津城警視正のとった対抗策は? 長崎の小島“モンゴルランド”を舞台に,最後の死闘が始まる。

 「公安シリーズ」の第5作,最新作です。このシリーズをはじめて読んだのが,2ヶ月前。『百舌の叫ぶ夜』でした。この作品がその続編かと,続けて読もうと思っていたのですが,途中に,『幻の翼』『砕かれた鍵』がはさまれ,さらに『百舌の叫ぶ夜』に先行して,『裏切りの日日』が書かれていることを知り,と,なにやらえらく遠回りをして,ようやくゴールにたどり着いたような気分です。もっとも,もしなにも知らずに続けてこの作品を読んでいたら,わけが分からなかったのではないかと思いますので,結果オーライです。

 で,内容ですが,最後の真相は,なかなかひねりが効いていておもしろかったですし,紋屋や残間といった登場人物が,一種の煙幕のような感じがして,物語の先行きの展開を不透明にしていて,サスペンスを盛り上げています。また最後の美希・大杉コンビ対「百舌」との闘いも,緊迫感あふれます。ただなんというか,どうもストーリー展開が一本調子になってしまっているようです。もともと津城警視正は,裏でなにやら工作して,ストーリーの前面にはでてこないキャラクターですし,倉木尚武亡き今,実質的に行動するのは美希と大杉だけですので,どうも物語を進める視点が少なく,物語が平板になっているような気がします。『百舌』や『鍵』がもっていた,ある種の「奥行き」のようなものが感じられません(逆に視点がひとつであれば,それはそれで違っていたのでしょうが)。美希と大杉との接近も,半ば予想されていたことですし,いまいち新味に乏しいですね。でもって,津城が「ああいうこと」になってしまったためでしょうか,エンディングも,やたらと強引で,大杉の言葉ではありませんが「そんなことが通用するのか」と,疑ってしまいます。やはりシリーズものというのは,前作を越える作品をつくるのは,大変なのでしょうか?

 この作品で,「公安シリーズ」の既刊5冊を読み終わりましたので,勝手ながら,この5作のランキングをしてみたいと思います。1位『百舌の叫ぶ夜』,2位『砕かれた鍵』,3位『裏切りの日々』,4位『よみがえる百舌』,5位『幻の翼』。どんなもんでしょうか? ミステリ性の強いものが上位になってしまいましたが・・・。

 さて,今回「よみがえった百舌」は死んだのでしょうか? なにやら含みを残しています。つぎは『よみがえる幻の翼』だったりして・・・,ほとんど「ジェイソン」ですね(笑)。

97/04/05読了

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