逢坂剛『砕かれた鍵』集英社文庫 1995年

 続発する警察官の不祥事事件。それらの事件を調査する警察庁警務局特別監察官・倉木尚武は,コカイン工場で殺害された刑事が,絶命の間際「ペガサス」という名前を口にしたことを知る。「ペガサス」とは何者なのか? そんなとき,尚武と美希の息子が入院する病院で爆弾テロが! 標的と間違えられた美希の母親と息子が殺された。復讐に燃える美希は,単身,調査を開始する。そして警察をやめ私立探偵となった大杉良太もまた,尚武の依頼を受け,警察内部の暴露本を出版する出版社の調査を始める。「ペガサス」,爆弾テロ,警察の腐敗・・・,絡み合う事件の奥底に潜んでいたものは・・・

 『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』につづく「公安シリーズ」の第4弾です。倉木尚武,倉木美希(旧姓明星),大杉良太,津城俊輔といった,『百舌』以来のおなじみの面々が三度チームを組みます。謎の殺人犯「ペガサス」の正体をめぐる謎解きは,『百舌』と同じような趣向です。が,今回は『百舌』のフーダニットに加え,「ペガサス」の犯行の動機,ファイダニットも作品の重要なテーマになっており,ミステリ性が強いと思います。『裏切りの日日』の感想文で,このシリーズは,ミステリ性からサスペンス性へと,重心がシフトしていく,という仮説(?)を立てましたが,しっかり反証されてしまいました。でもこのシリーズのミステリ性に愛着を持つわたしとしては,うれしい反証でした。またこのシリーズの前3作までは,最後になって,津城警視が裏の裏まで「解説」する,という結末が踏襲されていて,そこらへんがちょっと不満でした。しかしこの作品では,あちらこちらに散りばめられた謎や単発的と思われる事件が,終末に向かうに連れ,かちりかちりとジグソーパズルのように,あてはまっていく形で進行し,むしろ前3作に比べると,サスペンスが盛り上がり,読んでいて小気味よかったです。作者としても,やはりパターンを変えたくなったのではないでしょうか。もっとも津城警視は,前作の『翼』で頭部に銃弾を受け,半分リハビリ中だったので,あまり活発には動けないという事情があったわけですが。それでもしっかり最後には顔を出すあたり,やっぱり一筋縄ではいかないおっさんですな。

 しかし作者は,登場人物,とくに倉木尚武に怨みでもあるんでしょうかねえ。『百舌』では奥さんが殺されるし,『翼』ではぼろぼろにされるし,今回は息子も殺され,あまつさえ×××××だし・・・。ストーリー展開のためとはいえ,なんか倉木に同情してしまいます。さあて,ようやく『よみがえる百舌』までたどり着いたぞ,と。

97/03/23読了

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