逢坂剛『幻の翼』集英社文庫 1990年

 日本海沖で逮捕された瀕死の北朝鮮工作員は,絶命の間際「シンガイ」という言葉を残した。そして能登で不審な人物が確認される。死んだはずの新谷(シンガイ)=「百舌」が甦ったのか? 一方,特別監察官・津城俊輔警視正は,警察機構全体の公安化をはかる森原法務大臣に対する攻撃を再開する。が,森原らの反撃はすばやく,津城一派の倉木尚武,明星美希,大杉良太へと襲いかかる。つぎつぎと囚われの身となる彼らの運命は? そして「百舌」はどこにいるのか?

 『百舌が叫ぶ夜』の続編です。解説で北方謙三は「単独でも読める」などと書いていますが,『百舌』を読んでいなければ,はっきりいってわけがわからないだろうし,なにより,もしこちらを先に読んでしまった読者が,『百舌』を十分楽しめるとは思えないほど,『百舌』のメインの謎のネタばれをしています。なぜこれほど,しつこく書くかというと,そういった内容にも関わらず,文庫カバー裏の「あらすじ」に,『百舌』の続編であることを明記していないことに,少し腹が立ったからです。多くの文庫の購入者が,この「あらすじ」を手がかりとして本を選ぶ以上,きちんとその辺のことは書いておいてもらいたいものです。

 さて内容ですが,きわめてスピーディーなストーリー展開で,あれよあれよと,一気に読み通せます。そういった点では面白いのですが,どうしても『百舌』と引き比べて,読んでしまいます。その結果,本作品は,『百舌』に見られた強力な謎が,見られません。それに似たような部分もありますが,二番せんじなうえ,小粒な印象がまぬがれません。またクライマックスにおける津城警視正の振るまいが,『百舌』とまったく同じで,少々白けます。ほとんど性格の悪い遠山の金さんか,水戸黄門のようです。それに倉木,明星,大杉の行動パターンがみんな同じで,そのためストーリーがあまりに平板になってしまってます。それと「百舌」の役回りがあんまりです。ほとんど狂言回しのような気がします。もっともタイトルの『幻の翼』の「翼」というのは,「百舌の翼」という意味で理解すれば,それはそれで仕方がなかったのかもしれませんが・・・。

97/03/10読了

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