井上雅彦『妖月の航海 ネオ・シンドバッド』ソノラマ文庫ネクスト 1999年

 唐の都で奇怪な秘石“朧竜石”を手に入れた,倭国の船乗りシンバは,それをきっかけに不可思議な冒険へと導かれていく。唐から平安京へ,そして南海へ・・・ ふたつの「平和の都」を守るため,妖術,魔術,魔神入り乱れての異形の戦いが,いまはじまる!

 『おなじ墓のムジナ』に続いて「軽めシリーズ」の第2弾です(笑)。元本は,1992年に勁文社から出版されましたが,『ディオダティ館の夜』と同様,作者の近年の活躍に応じての文庫化なのでしょう。

 「船乗りシンドバッドの冒険」といえば,原典である『千一夜物語』では読んだことがなくても,ジュヴナイルのダイジェスト版や映画,アニメーションなどで馴染み深い物語です。作者は,そんなシンドバッドの波瀾万丈の冒険譚を,東アジアへ,日本へ,そして南海へと移植して,奇想天外なストーリィを紡ぎだしています。さらに,本家であるアラビア魔術はもちろん,陰陽道やら「南海の魔神」やらゾンビやら,おまけにH・P・ラヴクラフトばりの壮大な暗黒神話(「懦艮(ダゴン)やら『狂える亜刺比亜人』やら,「にやり」とさせられます)まで,あることないこと,有象無象をごった煮のごとくぶち込んで,荒唐無稽な異界を作り上げています(四文字熟語の形容が妙に多いな・・・^^;;)。
 そんなわけですから,深いことは考えず,次から次へと飛び出てくる邪術やら妖術,怪人やら魔人やらの跳梁跋扈,それに対する主人公シンバや陰陽師鳳膳らの対抗策を楽しみながら,サクサクと読んでいけます。作者もけっこう楽しみながら書いたのでは,と思わせるような作品です。
 またこの作者の場合,アンソロジスととしても定評があるように,ホラー的世界に深い造詣を持っておられるようなので,こういった,一種「本歌取り」のようなテイストを持った作品―たとえば『骸骨城』のような―にこそ,その真価が発揮できるのではないかと思います。

 う〜む・・・スピード感たっぷりの異形世界を楽しむ本作品は,あまりグダグダと感想文を書ける作品ではありませんね(笑)。でもおもしろかったです。

99/11/02読了

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