ジューディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』ハヤカワSFシリーズ 1966年

 SFとホラーとをミックスさせたような作品16編を収録したアンソロジィです。ただ巻末解説の都筑道夫によれば「かなりゲテモノに近い」「ばけものばなし」だそうです(笑)
 16編を収録しています。

ブルース・エリオット「狼は泣かず」
 ある朝目覚めると,狼は人間の男になっていた…
 人間が動物になるという変身譚は数多くありますが,本編はその逆を描いた作品。人間になった狼が,それをけっして「良し」としていないこととともに,伝説的なモンスタに結びつけたエンディングがいいですね。
アンソニィ・バウチャー「大使」
 火星人と友好関係を築くため,科学者が見いだした方法とは…
 古典的な素材を,意外な発想でSFに上手に取り込んでいます。そのうえで自然に導き出されるオチには思わず苦笑。
ジェローム・ビクスビイ&ジョオ・E・ディーン「血をわけたなか」
 救命ボートに乗り合わせたふたりの男は…
 生存のため,人間に依存せざるを得ない吸血鬼ですが,ふたつの意味で「食糧」の限られた救命ボート上という舞台に設定することで,人間と吸血鬼との奇妙な共生関係を産み出しています。
フレドリック・ブラウン「血が吸いたい!」
 人間の迫害を逃れ,タイムマシンに乗って未来へ向かった吸血鬼は…
 一見,敵対関係に思える人間と吸血鬼との間の「本質的な関係」を,SF的手法を用いて,この作者らしい皮肉に描き出しています。上の「血をわけたなか」と同一モチーフの別ヴァージョンとも言えましょう。
シアドー・スタージョン「ある思考方法」
 へんてこな思考方法を持つ古い友人の弟が“奇病”に罹った。その原因は…
 シオドア・スタージョンのことです(笑) アンソロジィの性格とは,ちょっとはずれたストレートなホラー作品。やや冗長なのが難。ただ,ラストは一瞬わかりませんでしたが,「真相」が見えてくるにつれ,おぞましさが浮き上がってきます。
ウィリアム・テン「クリスマス・プレゼント」
 そのクリスマス・プレゼントは,200年後の未来から送られてきたものだった…
 瀬名秀明『BRAIN VALLEY』の中で「科学とは,神と対話することである」と書いていますが,かつての(今でも?)科学の目標は「神そのものになること」だったのではないでしょうか? 神になろうとしてなり損ねた男の悲劇をアイロニカルなストーリィで描いています。そういった点で,本編の原題“Child's Play”は意味深長。
マンリイ・ウェイド・ウェルマン「醜鳥(しこどり)」
 風来坊の“俺”は,とある田舎町で奇怪な男と出会った…
 古典的な素材とストーリィに,現代的な“小道具”を,巧みにミックスさせた痛快な作品です。飄々とした主人公のキャラクタと,スピーディなストーリィ展開が楽しめます。
リチャード・パーカー「手押車」
 アンソロジィ『恐怖通信II』「手押し車になった少年」というタイトルで収録。感想文はそちらに。
レスリイ・チャータリス「魚怪」
 偶然知り合った老人から,泳ぎをバカにされた男は…
 「自分の中に眠る異形の力に気づいたときの恐怖」という古典的なネタを,ユニークな着眼点で「料理」しています。地球上の生命が海から産まれたという由来を重ね合わせているところも巧いですね。ただ主人公の俗物根性がやや鼻につきます(笑)
クリフォード・D・シマック「逃亡者」
 この作者の代表作『都市』の中の1編。アンソロジィ『幻想の犬たち』にも収録され,感想文はそちらに書いています。
ウォルター・M・ミラー「くだらぬ奴」
 ひとり息子は,“外界”にいる父親と交信しているのだという…
 異星人の侵略が,思いもかけぬ理由で破綻してしまう,というストーリィは,SF短編でときおり見かけるものですが,主人公の母親にとって,相手が自分と子どもを捨てたくだらぬ奴である以上,人間であろうが,異星人であろうが,関係なかったのでしょう。そのへんの設定が心憎いです。
フリッツ・ライバー「男が悲鳴をあげる夜」
 “あたし”はリリ・マーリーン。銀河センターから男に会うためにやってきた…
 SFの衣裳はまとっていますが,むしろ不条理ホラーに近いテイストを持った作品。映像化されたら,思いっきりグロなスプラッタなものになるでしょうね。
J・B・ブリーストリイ「魔王」
 その男が舞台にあがったとき,夢幻劇は一変した…
 ネタはすぐにばれてしまいますが,ユーモアたっぷりの文体で描かれる,テンポのよいスラプスティクが楽しめる作品です。
ロバート・シェクリイ「論より証拠」
 人類最後の男に,ある「力」が宿りはじめた…
 お話作りの巧いこの作家さんにしては,いまひとつといった感じがします。お話の焦点が奈辺にあるのか,ちょっとわかりません。
リチャード・R・スミス「倦怠の檻」
 火星人から奪った宝石…それは小型のタイム・マシンだった…
 「繰り返す時間から逃げ出せない」という設定は,最近なにかと眼にし耳にしますが,古典的なモチーフだったのですね。「10分」という短時間に縛られながら,倦怠が蓄積するというアイロニカルな状況がおもしろいですね。また最後にいたって,主人公が,倦怠よりももっと質の悪いものに苛まれていくところも,興味深い着眼点として楽しめました。
アーサー・ポージス「最後の人間」
 人類最後の男は,魔女と吸血鬼と悪鬼に出会った…
 なんとも奇妙奇天烈なオープニングから,ストーリィは思わぬ方向へと転がっていきます。結局,魔女も,吸血鬼も,悪鬼さえも,すべて「人間まがい」であり,大きく見れば「ひとくくり」なのでしょう。

04/03/28読了

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