中田耕治編『恐怖通信II』河出文庫 1987年

 「もしね,ものごとがすべて,その外見どおりのものだとすれば,誰だってその人なりに,そういうことが起こった理由を説明することはできるよ。だがね,全く間違っているかもしれないんだ」(本書 ウィリアム・H・ホズスン「見えない馬」より)

 『恐怖通信』に続くアンソロジィ第2集。10編を収録しています。ただしホラーだけでなく,ファンタジィ作品の収録率が高く,前作とは雰囲気がちょっと違います。

スティーヴン・V・ベネット「猫の王様」
 天才指揮者ティーボルトには,尻尾があった…
 「ですます調」でユーモアあふれるテイストは,初期の萩尾望都あるいは坂田靖子の短編を彷彿させる内容です。ヨーロッパの民話がベースにあるのかもしれません。
ロバート・E・ハワード「屋上の邪神」
 中米の“蝦蟇寺”から,冒険家が持ち帰ったものとは…
 この作者の短編集『黒の碑』「屋上の怪物」というタイトルで収録されています。フォーマットこそクトゥルフ神話にのっとっていますが,緊張感たっぷりの作風は,まさにこの作者ならではのものでしょう。
リチャード・パーカー「手押し車になった少年」
 先生に叱られたトーミスは,手押し車にされてしまい…
 「え? なにこれ?」と思っている間に終わってしまうファンタジックな掌編。正直,なんだかよくわかりませんが,ユーモアのあるところは「猫の王様」と共通します。
ブレンダ・マーシャル「鳩の踊り子」
 旅行中の男は,とある島の“鳩”に惚れ込み…
 それは男の狂気だったのか? それともスーパーナチュラルな「何か」があったのか? ストレンジ・ストーリィといったテイストの作品です。
フリッツ・ライバー「レントゲン写真」
 原因不明で腫れあがった足首。そのレントゲン写真に写っていたものは…
 発端と結末をストレートに書けば,ごくオーソドクスな怪談なのですが,途中で読者に「別の可能性」に目を向けさせているところは,結末の不気味さを盛り上げるのに,巧い手法ですね。
ロバート・ブロック「キャンディにはキャンディを」
 父親から「魔女」呼ばわりをされる娘は…
 古典的な呪術を描きながらも,ラストの処理がじつにショッキングです。またそのように導いていくプロット,キャラクタ配置も筆慣れたこの作者らしいものです。
ミリアム・A・デフォード「ヘンリー・マーティンデールと大きな犬」
 ある朝,ヘンリーが目覚めると,彼はグレートデンに変身していた…
 この世ならぬ異様なシチュエーションに直面しながらも,主人公が,妙に「現実的」にそれに対処していくところが,小気味よいですね。
スプレイグ・デ・キャンプ「タンディラの眼」
 気まぐれな王から,宝石の強奪を命令された魔術師は…
 したたかで俗っぽい魔術師,おつむより体力にものを言わせるタイプのその弟子を主人公とした,「剣と魔法」の異世界ファンタジィです。テンポのよい展開と,ミステリ・タッチの構成が楽しめます。もしかするとシリーズものの1作なのかもしれません。
L・T・ミード「呪われた魂」
 500年前にクリントン家にかけられた呪いとは…
 若干の不満もありますが,古典的な「呪いもの」的なストーリィ展開の末に,ラストでの鮮やかなツイストはお見事。とくに扉をめぐるシーンを,じつに上手に用いています。
ウィリアム・H・ホズスン「見えない馬」
 悪魔払い師カルナッキが遭遇した“馬伝説”とは…
 一種の「オカルト探偵もの」とも呼べましょうか。奇怪な言い伝え,美少女の周囲で起こる怪事,彼女を護ろうとする男たち,と,メリハリのついたストーリィ展開が楽しめるオカルト・サスペンスです。また「心の闇」と「悪霊」との結びつきは,モダン・ホラー的テイストも持っています。ただミステリ者としては,やはり不満も残っちゃうんですが(^^ゞ

03/08/01読了

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