オーガスト・ダーレス『淋しい場所』国書刊行会 1987年

 アーカムハウス叢書の1冊。18編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。

「淋しい場所」
 仁賀克雄編のアンソロジィ『幻想と怪奇 1』に収録。感想文はそちらに。
「キングスリッジ214番」
 嵐の夜,その未亡人の元に不可解な電話が何度もかかり…
 怪談は「語り口」が命と言えますが,その「語り口」とは「演出」と言い換えることができるかもしれません。電話交換局という,「耳」だけの存在に主人公を限定することで,骨格そのものは古典的な怪談を,じつに巧みに不気味な作品へと仕立てています。
「シデムシの歌」
 アンソロジィ『幻獣の遺産 憑依化現』「しでむしの歌」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「暗い部屋」
 子どもの頃,お仕置きのために閉じこめられた物置部屋には…
 個人的に「ツボ」の作品です。子どもの頃の記憶という素材もそうですが,「ほら,あなたにもそんな思い出,あるでしょ?」といった感じの,「あなた」という語りかけ口調の文体もいいです。テイストはぜんぜん違いますが,吉田秋生の初期の短編マンガ「ざしきわらし」を連想しました。
「ポッツの勝利」
 遣り手のインテリア・デザイナーは,曰く付きの部屋の改装を依頼されるが…
 幽霊とインテリア・デザイナーとの闘争(?)をコミカルに描いた作品。主人公の性格が,いかにも憎々しげなので,結末にはかえってカタルシスを感じてしまいます。
「レコード録音機」
 1年間の契約で借りた家には,レコード録音機があり…
 言うまでもなく「心霊写真」というのは,「写真」が発明されてから産まれたものです。新しいメディアは,新しいタイプのホラーを産み出すと言えましょう。本編もまた,そんな新メディアの出現に寄り添う形で書かれたものなのでしょう。
「へクター」
 愛犬の幽霊が出ると,その手紙には書かれているが…
 手法的には,今からすると新規な感じは受けないものの,へクターという「犬の幽霊」を介在させることで,「手紙」の持つ怪しさを巧みに浮かび上がらせているところが楽しめます。
「もうひとりの子供」
 仁賀克雄編のアンソロジィ『幻想と怪奇 3』「もう一人の子供」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「フォークナー氏のハロウィーン」
 夜,霧のロンドンで道に迷った男は,とある一室に導かれ…
 魔物が集うといわれるハロウィンの夜を,SFに仕立て上げています。イギリス史についての基礎知識が必要ですが(笑),コンパクトにまとまった作品です。
「幽霊屋敷」
 男が「幽霊付きの屋敷」を借りた理由は…
 本当かどうか知りませんが,イギリスでは,「幽霊付き」の方が,家やアパートの価値があがるそうです。その「幽霊」を利用して,ある企みを考えた男のお話です。最後に出てくる「幽霊」の一言が,ユーモラスな全体的色調とマッチして,思わず苦笑を誘います。
「図書館の殺人鬼」
 大学図書館の地下,膨大な新聞が収納された部屋では…
 知り合いが,一般紙をやめて,日○経○新聞をとるようになった理由は「一面に,むごたらしい事件の報道がないから」だそうです。毎日の新聞に掲載されたさまざまな「死」…新聞が読み捨てられるがゆえに,わたしたちは,それらを忘れることができます。しかし,それが大量に保管されている図書館には,まさに「死が堆積している」のでしょう。着眼点のすばらしさにうならされる作品です。
「黒い髪の少年」
 田舎の学校に赴任した女性教師は,ひとりの少年と出会うが…
 いわゆる「学校怪談」の範疇に含められますが,「黒い髪の少年」をめぐって,女性教師,その少年の父親,そして少年の「寂しさ」の交錯点を叙情的な雰囲気で描き出しているところが,本編の特色です。

05/03/07読了

go back to "Novel's Room"