渡辺誠編『幻獣の遺産 憑依化現』北宋社 1994年

 短編9編を収録したアンソロジィです。巻末に蜂巣敦による「解題 取り憑くもの,人を喰うもの」が収められています。

ウィリアム・ホープ・ホジスン「闇の海の声」
 アンソロジィでは繰り返し採録される,この作者の代表作です。『恐怖と幻想 第2巻』収録。感想文はそちらに。
H・G・ウェルズ「怪鳥イーピヨルニスの島」
 男は,漂着した孤島で,絶滅したといわれる鳥イーピヨルニスと2年間過ごしたという…
 ホラーというより「綺譚」といった観の強い作品です。翻訳のせいもあるのでしょうが,語り手の口調がじつにユーモラスで,孤島での主人公とイーピヨルニスとの生活は,ファンタジックでもあり,スラプスティク的なところもあって楽しめます。「もしかすると,すべてホラ話では?」と思わせる雰囲気もよいですね。
カール・ジャコビ「水槽」
 ハヤカワ文庫版『幻想と怪奇 1』に所収。感想文はそちらに。
レイ・ブラッドベリ「巻貝」
 病気の少年が,巻貝を耳に当てると…
 日本には「七歳までは神のもの」という言葉があります。それは乳幼児の死亡率が高かった時代の哀しい真実を示した言葉でもありますが,同時に,子どもというものが,大人とは違う「世界」に生きていることをも示しているのではないでしょうか。この作者にとって,そんな異人としての「子ども」を描くのは,まさに自家薬籠中のものといえましょう。この作者の短編集『黒いカーニバル』に収録されていますが,そのときは印象的なセリフを,冒頭に引用したものの,感想文をアップしていませんね。
ジョン・グッドウィン「繭」
 ハヤカワ文庫版『幻想と怪奇 1』に所収。感想文はそちらに。
オーガスト・ダーレス「しでむしの唄」
 コーニロ老人が,うさぎの死骸を引きずる“しでむし”を見つけたのが,はじまりだった…
 主人公の“しでむし”に感じるおぞましさをベースとしながら,子どもたちの無邪気な,しかし残酷な“唄”,そしてマッド・サイエンティスト的趣向を重ね合わせながら,不気味な物語を紡ぎ出しています。「描かれざる結末」を想像するとき,“しでむし”におぞましさを感じないわたしであっても,やはり怖いものがあります。
香山滋「ネンゴ・ネンゴ」
 その町で起こった連続食糧盗難事件の真相は…
 故郷の島ネンゴ・ネンゴを鼠に追われて逃げてきた親子とは,いったい何者だったのでしょうか? そして生き延びるために「鼠」になるとは,どういうことだったのか? シンプルなストーリィの中に散りばめられた曖昧な不可思議さが,とらえどころのない「奇妙な味」を醸し出しています。
H・H・エーベルス「蜘蛛」
 そのホテルの1室では,たてつづけに「理由なき首つり自殺」が起こり…
 この作品の眼目は,やはり一人称スタイルを採用した点にあるのでしょう。つまり,手記という体裁によって,「憑かれる側」の不安を,少しずつ少しずつ織り込みながら,真相とカタストロフへと導いていく緊張感を,効果的に高めています。
小松左京「くだんのはは」
 戦争末期,“僕”が身を寄せた豪邸で見たものは…
 おそらく日本を代表する(と同時に,その土俗性ゆえに日本のみで通じる)ホラー作品のひとつといえましょう。今回読み返してみて思ったのは,本編は,思春期に敗戦を迎えた少年を描いた「青春小説」でもあるのではないか,ということです。

04/06/04読了

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