仁賀克雄編『幻想と怪奇 3』ハヤカワ文庫 1978年

 古典とも言えるホラー・アンソロジィ・シリーズの第3集です(ちなみに『1』の感想文はこちら『2』は未入手です^^;;)。13編を収録しています。

フレドリック・ブラウン「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
 “音”を求める男は,小さな酒場で,すばらしい楽器にめぐり会う…
 強迫観念がエスカレートして,狂気へ,犯罪へと進んでいくというストーリィは,常套的なものでありますが,ラストで怪異を導き出し,さらに鮮やかな「オチ」をつけるところが,まさにこの作者ならではテイストと言えましょう。
オーガスト・ダーレス「もう一人の子供」
 孤独な老人が失踪した。大のお気に入りのはずの絵画を残して…
 コテコテにオーソドクスな「絵画怪談」です。ですが,この手の作品にありがちな「絵の中の魔性」を設定するのではなく,失踪した人物の,かつての恋人の死をきっかけにしているところがユニークですね。
エイヴラム・デイヴィッドスン「エステルはどこ?」
 家政婦のエステルは,主人の妻から冷たく扱われ…
 エステルに悪意はあったのでしょうか? それとも単なる「事故」だったのでしょうか? きっと彼女は何も答えないでしょう。その沈黙こそが,彼女の差別に対する唯一の「武器」なのでしょうから…
ロバート・ブロック「こころ変わり」
 時計の修理に入った店で,“ぼく”は,店の娘に一目惚れするが…
 日本であれば,高橋葉介作品を連想させるダーク・ファンタジィです(初出はこちらが先ですが)。作中に出てくるように,「20世紀らしからぬ」愛情を孫に注ぐ老爺もまた,「20世紀らしからぬ」技術を用いる魔術師だったのかもしれません。
ブラッドリイ・ストリックランド「墓碑銘」
 南北戦争で傷ついた若者が,帰ってきた故郷で見たものとは…
 素材そのものは,きわめてオーソドクスなものですが,主人公に対する愛情といたわりの気持ちが上手に織り込まれ,もの悲しいリリカルな作品に仕上がっています。かぐや姫の「あの人の手紙」を思い出しました(<お達者倶楽部用にネタばれ反転)
レスリー・ポールス・ハートレイ「週末の客」
 ファンを名乗る謎の人物から,毎週1回,絵はがきを受け取るようになった作家は…
 都市伝説をベースにしたと思われる不気味なシチュエーション,差出人をめぐるミステリ,そしてクライマクスでのツイスト,と,初出年代が書かれていないのではっきりしませんが,まさにホラー・サスペンスの「コア」と言っても良い作品です。
ジェラルド・カーシュ「海への悲しい道」
 借金に首が回らなくなった男は,発作的に集金人を殺してしまい…
 じりじりと追い込まれていく主人公,殺害後の心の揺れ動き,「海に行きたい」という悲しいまでの脱出願望などなど,いや,クライム・ノベルとして読めば,それなりにおもしろい作品だと思います。しかし,なぜこのアンソロジィに収録されているのか,が疑問です。
レイ・ブラッドベリ「死人使い」
 葬儀屋にとって,劣等感をため込むことが必要不可欠な「儀式」だったのだ…
 この作者にしては珍しい「B級スプラッタ・ホラー」的な手触りを持った作品。アメリカ式の「顔しか見えない棺桶」から思いついたネタではないかと想像します。ラストの一語でもって,きっちりと落としているところはさすがです。
ジョン・コリア「特別配達」
 マネキン人形を恋してしまった男の行く末は…
 イギリス版「人でなしの恋」でしょうか。しかしこちらは乱歩作品のような淫靡さはなく,むしろ「あれよ,あれよ」といった感じで,奇妙な運命を辿る男の姿が,アップテンポに描かれています。
チャールズ・ボーモント「子守唄」
 実家へ逃げ込んだ不良息子を待っていたのは…
 息子が赤ん坊のままであると信じ込む老婆と,その母親から存在さえも否定されてしまっている不良息子。両者の間の越えることのできない溝を描いた,奇妙で,皮肉で,そして絶望的なまでに哀しい物語です。
ジャック・ヨネ「牝猫ミナ」
 野良猫を愛する女が,男と暮らすことになり…
 作中で語り手が述べているように,まさに「中世の物語」のようなストレンジ・ストーリィです。しかし,それが,森の中の城館ではなく,大都会の屋根裏部屋で起こるというギャップゆえに,より綺譚らしくなっているのかもしれません。
シリア・フレムリン「特殊才能」
 素人の文芸サークルに闖入してきた小男は,特殊な能力を持つという…
 「音」というのは,怪談における重要なアイテムのひとつでしょう。「他人を自分の夢に引き込む」というアイデアを,より効果的に展開させるために,本編では,その「音」を巧みに用いています。そして,最後の「音」が,主人公を引き込む先は?と,想像すると「ぞくり」とする怖さがあります。
リチャード・マシスン「おれの夢の女」
 妻の予知能力を「売り物」にした男は…
 オチは「お約束」といった感じですが,前半で主人公の男を,思いっきり憎々しげに描くことで,クライマクスへの展開をスムーズにしています。このあたりのストーリィ・テリングの妙は,やはりこの作者ならではですね。

04/01/03読了

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