はやみねかおる『怪盗クイーンはサーカスがお好き』講談社青い鳥文庫 2002年

 「夜の闇に浪漫を感じ,赤い夢の中で生きている子どもがいるかぎり,怪盗や名探偵がいなくなることはない」(本書より)

 飛行船“トルバドゥール”を駆って世界各地に出没する“怪盗クイーン”。今度の彼の目的は,日本の星菱大造が持つ宝石“リンデンの薔薇”。ところが,星菱邸に忍び込んだクイーンの眼前で,宝石は謎のサーカス団によって盗まれてしまう! サーカス団の目的は? そしてゲームを挑まれたクイーンの勝算は?

 というわけで,この作者の新シリーズです。主人公は怪盗クイーン松原秀行との合作(というのか?)『いつも心に好奇心(ミステリー)!』で,夢水清志郎に挑戦した大泥棒です(本編に登場するコンピュータ“RD”というのは,そのときに盗んだものですね)。でもって,夢水番外編『ギヤマン壺の謎』などに出てきた“怪盗九印”とは,やはりなんらかの関係があるのでしょう(端的に言ってクイーンは九印の子孫なのでしょうね)。また夢水シリーズでも活躍する雑誌『セ・シーマ』のパワフル編集者伊藤真理嬢も登場するといった具合です。このような既発表作品とのニアミスというか,裏設定でつながるというか,そういった趣向は,ミステリでなによりも求められる「遊び心」とも言えるものでしょう。
 ただし今回は,怪盗が主人公であるせいでしょうか,「怪盗」が持つ派手さやけれん味,スピード感が前面に押し出されているようですね。とくに今回クイーンの「お相手」となる“セブン・リング・サーカス”の面々。それぞれにサーカス芸を持っているわけですが,その芸を活用しながら“リンデンの薔薇”を盗み出すところは,警官に化けて潜入するクイーンより,はるかに「怪盗」らしいです(笑) もっともクライマクスでは,「わたしが主役だ!」と言わんばかりのアクロバティックを見せつけて,怪盗としての「帳尻」を合わせますが^^;;

 しかしもちろん,ミステリ的なテイストも兼ね備えているところが,この作者らしいところといえましょう。物語後半,ショータイムの終了までに“リンデンの薔薇”を盗むことを課せられたクイーン。彼はいったいどのようにして宝石を手に入れるのか? いやさ,登場人物の中の誰がクイーンの変装なのか? という「謎」が,ストーリィの牽引力になっています。ミステリを読み慣れたものの「目」からすると,クイーンの変装は,最初から見当つくところもありますが,そこにもうひとひねりを加えているのが,この作者の,やっぱり「ミステリ魂」なんでしょうね。
 それと本作品を引き締めているのが,オープニングとエンディングでしょうね。もしかすると,この作品における「サーカス」というのは,作者にとっての「ミステリ」なのかもしれないな,とふと思ってしまいました。ミステリが楽しめる平和,というのは,たしかにありますからね。ちょうど,戦争が終わるとともに横溝正史たちが,猛然と執筆を再開したように…

 ところで,サーカスの一員「竹馬男 スタイリー井上」って,やっぱりあの人がモデル(?)なんでしょうね(笑)

02/05/05読了

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