はやみねかおる・松原秀行『いつも心に好奇心(ミステリー)!』講談社青い鳥文庫 2000年

 「青い鳥文庫創刊20周年記念企画」ということで,「青い鳥文庫」のミステリ・シリーズ2本を1冊にまとめた作品です。「合作かな?」とも思いましたが,それぞれに独立した作品となっています。両編がニアミスするところもありますが,あくまで「お遊び」といったところでしょう。ただ「ジョーカー」「クイーン」「飛行船」「人工知能」を共通のキーワードとして,作品に取り込むことが「縛り」になっています(もっとも「使い方」はまったく違いますが)。
 はやみね作品の方は,新作が出るたびに読んでいますが,松原作品は初見です。

はやみねかおる「怪盗クイーンからの予告状」
 飛行船で世界中に出没する怪盗クイーンと助手のジョーカー。日本に「名探偵」がいると聞いて,颯爽と来日! 倉木伶博士が開発した人工知能“RDシステム”を盗むと予告状を出すが…
 「怪盗vs名探偵」というと,古くはモーリス・ルブランの古典『ルパン対ホームズ』がありますが,やはり日本では,江戸川乱歩のジュヴナイルの代表作「怪人二十面相vs明智小五郎(&少年探偵団)シリーズ」が有名なところです。ミステリ作品の「入門編」として,洗礼を受けた方も多いかと思います。わたしもそのひとりですが,そこで描かれる怪盗と名探偵の虚々実々の(そして今思えばじつにファンタジックな)闘いに胸躍らせたものです。
 ですから,さまざまな古典的ミステリのエッセンスを,ジュヴナイルに取り入れているこの作家さんが,取り上げるべくして取り上げたテーマと言えましょう。とくに,物語の前半での「ブロンズ像盗難事件」のトリックや展開は,まさに「怪人二十面相」へのオマージュに満ちているように思います(「そうそう,こういったノリだったようなぁ〜」などと思いました(笑))。
 後半,メインである「RDシステム盗難事件」は,この作者のお得意,大技と小技のコンビネーションが冴えるエピソードといえましょう。中心となる「大技」は,ミステリを読み慣れている者の目には,いくつかの作品が思い出される類のものですが,その周辺に配された,目配りの行き届いた「小技」は心憎いですね。とくに,「ど忘れ防止用メモ」としての「予告状」の使い方がよかったです。また「小泉さんの不思議な歩き方」は,「もしかして,SFミステリ?」などとも思ってしまいましたが,ずっとリアリティのあるものでした^^;;
 ところで『徳利長屋の謎』で示された,近年の国家主義的言説に対する作者の見解は,この作品でも引き継がれており,メッセージ色を併せ持った作品にもなっています。「戦争」と「平和」をめぐる議論が,ジュヴナイルらしく,カリカチュアされ,単純化されてはいますが,子どもたちに「議論の芽」を植え付けるという点で,意味深いものだと思います。

松原秀行「パスワード電子猫事件」
 パソコン通信探偵団のひとり・まどかの家にあずけられた人工知能を持つ猫型ロボット“AIMIA”が行方不明になった! その行方を探す探偵団。一方,「ジョーカーの掲示板」には,「クイーン」を名乗る人物から不思議な書き込みがあり…
 ああ,梗概に「飛行船」を盛り込むことができなかった(笑)(でも無理に入れるとネタばれになっちゃうしなぁ・・・^^;;)。
 作者が「あとがき」にも書いていますように,泡坂妻夫『喜劇悲奇劇』を彷彿させる,全編に「回文」が散りばめられた作品です。また冒頭の,「ビル・シリーズ」のなぞなぞや,途中に挿入された「ジョーカーの掲示板」への奇妙な書き込みなど,「暗号」的,「言葉遊び」的な雰囲気に満ちた作品になっています(ところで,今どきの子どもが,「ダンパ」なる言葉,知っているのかな?^^;;)
 さて物語は,「AIMIA行方不明事件」をめぐる探偵団の行動を追う一方,各章の間に「ジョーカーの掲示板」の書き込みが挿入されています。「両者はどのように結びつくのか?」というところが,読み進めていく上で,興味のひとつになります。その結びつくシーンは,ややご都合主義的なところもありますが,結びついた時点で,それぞれの「事件」にこめられていたさまざまな意味が,組み替えられ,まったく違った「絵」が浮かび上がってくるところは小気味よいですね。とくに,本編のキーワードのひとつ「クイーン」と「飛行船」の使い方の巧みさは,いいですね。おそらく,はやみね側からの希望ではないかと思われる「クイーン」を,上手に換骨奪胎しています。
 ただ,シリーズものを途中から読んだので,ちと戸惑ってしまうところもありました(レイネロの関係とか・・・二重人格ってわけじゃあいませんよね(^^ゞ)。もっとも,これは作者の側にはまったく責任のないことですが。

00/11/03読了

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