はやみねかおる『ギヤマン壺の謎』講談社青い鳥文庫 1999年

 さて「名探偵夢水清志郎事件ノート」「番外編」は,夢水清志郎ならぬ夢水清志郎左右衛門(このネーミングのチープさがたまりません(笑))が活躍する「大江戸編 上巻」です。

 こういったお馴染みのキャラクタを別の設定で描くというのは,マンガではよく見かけるパターンではありますが,「大江戸編」にも関わらず,オープニングの舞台がなぜかイギリスというところが,なんとも人を食っていて楽しいです。その「大江戸編序章 第一の事件 はじまりはエディンバラ」,トリックそのものはジュヴナイルらしいシンプルなものではありますが,描かれざる「ことの真相」と,それに対する夢水の対応が,ハートウォームでよいですね。
 「第二の事件 ギヤマン壺の謎」(一瞬,太田忠司「霞田兄妹シリーズ」を連想させるタイトルです^^;;)の舞台は長崎出島。密室状態から消えたギヤマン壺の謎を夢水が解きます。出島に日本人が好き勝手に出入りできたかどうかという時代考証はともかく(冒頭で,そこらへんに対する「伏線」はしっかり引かれてますし(笑)),丁寧に引かれた伏線がラストのツイストで生きてくる本編をタイトルの選んだのもうなづけるように思います。
 「第三の事件 六地蔵事件」は,夢水が江戸へ向かう東海道中,一晩のうちにふもとにあった六地蔵が峠の頂上に移動しているという謎。有名な「傘地蔵」の民話を巧みに利用しながら,盲点をついた作品に仕上がっています。ちなみに才谷梅太郎という名前は,あの人物がじっさいに使っていたと思います(実家がたしか「才谷屋」だったんじゃないかな?)。

 で,「大江戸編外伝 やつの名は巧之介」で,新キャラクタ中村巧之介が登場,その後のストーリィ展開に深く関わってきます。「超古流剣術 天真流」やら,新選組を絡ませるあたり,けれん味たっぷりで楽しめますが,それ以上に,「シリーズ外伝」の中に,さらに「外伝」を挿入するところが,この作者の茶目っ気がよく表れています。

 そしていよいよ本編「名探偵 IN 大江戸八百八町」は,下巻でいろいろと派手な事件をぶちあげる予定のようなので(江戸城を消すそうです),この巻では,わりとおとなしめの「第一の事件 大入道事件」で幕開けです。どちらかというと,この手の「知らないとわからない」系の謎解きは,あまり好きではありませんが,キャラクタ紹介に絡めて埋め込まれた伏線が楽しめます(絵者という絵描きは,不思議な絵で有名なエッシャーのもじりでしょうね)。
 今回,巧之介は本筋ではあまり活躍しませんでしたが,下巻で登場するという「怪盗九印」の事件で,大立ち回りが期待できるかもしれません。いずれにしろ,遊び心たっぷりの「大江戸編 下巻」が楽しみです。  

 ところで,最後の方で登場した軽業師のゐつさんの「ゐ」の字に,しっかり「い」とルビがふってあるのには,笑ってしまいました。

98/09/08読了

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