中田耕治編『恐怖通信』河出文庫 1985年

 12編を収録したホラー・アンソロジィです。気に入った作品についてコメントします。

オーガスト・ダーレス「幽霊」
 彼に殺され幽霊になった“私”は,復讐を誓うが…
 ユニークな視点設定の幽霊譚と思っていたら,ラストで思わぬツイスト。この作者というと,つい「クトゥルフ神話」を連想してしまいますが,こういった技巧的な佳品も書いていたんですね。
ロジャー・W・トーマス「ブラッドレー家の客」
 嵐の夜,ブラッドレー家を訪れた女の正体は…
 女性であることをのぞけば,「招待されないと家には入れない」「ニンニクを嫌う」といった,ガチガチに古典的な設定の吸血鬼譚ですが,変身するのが蝙蝠ではなく蛾,というところが興味を引かれました。そんな伝承もあるのかな?
フランク・アッシャー「ヴェルサイユの幽霊」
 ふたりの英国人女性が,ヴェルサイユ宮殿で見たものの正体は…
 この話,どこかで読んだなぁと思って,鳥頭のわたしがいつもお世話になっている「翻訳アンソロジー/雑誌リスト目次」「翻訳作品集成」で探したのですが,本書以外の収録アンソロジィは発見できませんでした。頭をひねっていたら『西洋歴史奇譚』の中で「トリアノンの亡霊」というタイトルで「実話」として掲載されていたものでした。そのときは「SFっぽいな」と思っていましたが,こちらでは明確にタイム・トラベルとしていますね。
マデリーン・レングル「愛しのサタデー」
 その廃屋で,“僕”は少女と魔女,そして“サタデー”と出逢った…
 恐怖譚というより,ファンタジィと呼んだ方が適切な1編です。魔女の造形には,どこか不気味なものが漂いながらも,たとえば骸骨と踊り,その後に彼女が涙するシーンや,あるいは不思議な少女アレクサンドラが消えるシーンなど,魔女の哀切さを上手に表現していますね。
ウィリアム・バンキアー「おぞましい交配」
 アンソロジィ『恐怖のハロウィーン』「いまわしい異種交配」というタイトルで収録されています。
マレイ・ラインスター「悪魔の手下」
 ジョーは,自分のせいで呪いをかけられた少女を救うため,魔法の指輪を手に,戦いを挑む…
 アメリカ流というか,西部劇風というか,いかにも「マッチョ的」なエクソシストです(笑) 日本では「妖怪が身近にいる世界」が,フィクションでしばしば取り上げられますが,もしかするとアメリカ的には,それが「魔法」なのかもしれません。
モンタギュ・R・ジェイムズ「バラ園」
 『M・R・ジェイムズ怪談全集 1』「薔薇園」というタイトルで収録されています。
マイケル・M・ハードウィック「ブラック乳母」
 チャプマン夫妻が引っ越してきた屋敷。そこでは奇怪な出来事が続発し…
 オーソドクスな幽霊屋敷ものです。出てくる怪異現象も古典的な感じですが,ただ眼に見えないのに足音だけが聞こえる,というのは怖いですね。とくに主人公のアンが,忙しさにかまけて幽霊のことをふと忘れた矢先に,その足音が聞こえてくるところは秀逸。
レイ・ブラッドベリ「十月ゲーム」
 アンソロジィ『恐怖のハロウィーン』「十月のゲーム」というタイトルで収録されています。ちなみに,感想文は書いていませんが,本書所収の「犠牲(いけにえ)の年」(ロバート・F・ヤング)も『恐怖のハロウィーン』に「今年の生贄」というタイトルで収録されていて,3編かぶっていることになります。やはりハロウィン・ネタはホラーでは定番なんでしょう。

03/02/20読了

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