アイザック・アシモフ編『恐怖のハロウィーン』徳間文庫 1986年

 「かれらは知識こそ豊富だったが,ハロウィーンの夜,自分たちの身の上に起こることに対しては何の備えもなかった」(本書「輪廻」より)

 タイトル通り,“ハロウィーン”をモチーフとしたミステリ,SF,ホラー短編13編を収録したアンソロジィです。
 気に入った作品についてコメントします。

アイザック・アシモフ「ハロウィーン」
 プルトニウムを盗んだ犯人は「ハロウィーン」という言葉を残して死んだ…
 みずからが編者をつとめるアンソロジィのオープニングに自分の作品を配する,というのは,少々いかがなものかとも思いましたが,読み終わって,非常にシンプルなトリックのミステリでもって,いわば「ハロウィン解説」の役目を果たしているのだな,とも思い直しました。
ウィリアム・バンキア「いまわしい異種交配」
 さまざまな品種を産み出す肥沃な畑に,殺した女を埋めたことから…
 死体を埋めた場所から奇怪な植物が芽を出すという,素材的には,やや陳腐な観は免れませんが,ラストの一文がじつにアイロニカルで,思わず苦笑してしまいました。
レイ・ブラッドベリ「十月のゲーム」
 ハロウィーンの夜,自分をないがしろにする妻と娘をこらしめてやろうと決心した男は…
 なんといっても,不気味さ,狂気,おぞましさ,緊迫感がてんこ盛りのクライマクスの演出が抜群です。そしてその幕の引き方の絶妙さは,さすがブラッドベリ,思わず拍手したくなります。やはり侮れません(って,いまさらわたしが言うまでもないことですが(^^ゞ) 本集中,一番のお気に入りです。
ロバート・グラント「ハロウィーン・ガール」
 ハロウィーン直前,ともに“闇”を愛していた少女は急死し…
 最後の最後で「怪異」を,さらりと挿入することで,ハロウィーンの夜の持つ「異界性」を顕わにするとともに,主人公と少女との幼い恋心を巧みに,かつユーモラスに浮き彫りにしています。それにしてもこのふたり,この歳で,かなり「ヲ」の字のような(笑)
タルミジ・パウエル「小鬼の夜」
 ハロウィーンの夜,ボビーは,ある企みを実行し…
 途中で描かれる主人公の「ある行為」から,血まみれで陰惨な,しかもむちゃくちゃ後味の悪い作品かと懸念されたのですが,ラストはじつに鮮やかな着地。たしかに「被害者」はいるのですが,前半でのキャラクタ設定が巧いので,あまり同情心はわきません(笑)
リュイス・シャイナー「輪廻」
 友人たちが集まって怪談を語り合う夕べ,かつての仲間から一通の作品が送られてきて…
 オチそのものは,さほど目新しいものではありません。しかし,エキセントリックな人間が産み出す人間関係の不和,「物語」が読み進められるうちに起こる怪奇現象,そこから脱出するための血なまぐさい行為,などなど,雰囲気作りがじつに上手なショートショートに仕上がっています。
イーディス・ウォートン「万霊節前夜」
 脚を怪我した老女が朝を迎えると,屋敷から使用人たちの姿が見えず…
 本書中では,やや発表年代が古いせいでしょうか,最後に明かされる「真相」のサプライズはあまりないのですが,朝起きると使用人が誰もいないという不可解なシチュエーション,怪我をしているための焦燥感と痛み,しんしんと降り続ける雪などなど,古典的な「怪奇小説」のテイストが楽しめます。
ゲイアン・ウィルスン「昨日の魔女」
 “ぼく”は,子どもの頃,ミス・マーブルは魔女だと信じていた…
 近所の廃屋を,まことしやかな「噂」がつきまとう「お化け屋敷」「幽霊屋敷」と呼んだ記憶は,どなたにでもあるのではないでしょうか? 本当に幽霊を見た者がいるのかどうか,それはわかりませんが,子どもにとっては「そこ」はまごうことなく「幽霊屋敷」でした。そんなことを思い出させるのは,この作品が,子どもの心を的確に切り取っているからなのでしょう。

02/06/27読了

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