矢野浩三郎監修『恐怖と幻想 第1巻』月刊ペン社 1971年

 前々から読みたかった全3巻のアンソロジィ・シリーズ。ネット古書店で見つけて,値段も確認せずに,速攻で注文(<多少,お酒も入ってました(^^ゞ)
 本巻には13編が収録されています。

トマス・プレスケット・プレスト「恐怖の来訪者」
 嵐吹きすさぶ夜,少女は窓の外に不吉な影を見る…
 映画のワン・シーンのような作品,と思っていたら,監修者の「あとがき」によれば『吸血鬼ヴァーニー』という長編の1部とのこと。このヴォリュームならば,緊迫を高める大仰な文体も耐えられますが,長編となると,けっこうしんどいでしょうね^^;;(むしろ「剪定」した監修者の見識をほめるべきかな?)
ギィ・ド・モーパッサン「オルラ」
 『モーパッサン怪奇傑作集』所収作品。感想文はそちらに。
M・R・ジェイムズ「マグナス伯爵」
 『M・R・ジェイムズ怪談全集1』所収作品。感想文はそちらに。
クラーク・アシュトン・スミス「アヴロワーニュの森のランデヴー」
 恋人と逢うため,不吉な噂のある森に入った男は…
 コテコテのオーソドクスな吸血鬼譚です。しかし,主人公が吸血鬼の魔術によって,不可解な森の中に取り込まれてしまう場面や,古びた城の入り口に立つ吸血鬼,あるいはラストでのカタストロフの描写など,映像性豊かな点が楽しめました。
レイ・ブラッドベリ「二階の男」
 ダグラスの家の2階に下宿した男は,昼眠り,夜働いていた…
 小野不由美の和製吸血鬼小説『屍鬼』の中に,「屍鬼なんているはずがない,という常識が最大の武器だ」というセリフが出てきます。本編にも通じるこの「武器」は,しかし子どもによって破られます。無垢で,そして残酷な子どもによって…その設定が,いかにもこの作者らしいところでしょう。
アガサ・クリスティ「最後の降霊術」
 結婚を目前にした霊媒師は,最後の降霊術を行うが…
 この作家さんは,いわゆる「代表作」くらいしか読んだことがないので,この手の作品も書いていたのか,とちょっと驚き。ラストの狂気も凄いですが,わたしが感心したのは前半の霊媒師の女性とその婚約者との会話シーン。男の,「愛」を語りながらも,見え隠れする「下心」の描き方が絶妙です。
ロバート・E・ハワード「妖虫の谷」
 この作者の短編集『黒の碑』「妖蛆の谷」として収録。感想文はそちらに。
アントニー・バウチャー「噛む」
 かつて奇怪なカーカー族が住んでいた場所に,男はテントを張るが…
 ハードボイルと・タッチのホラー作品です。「視界の隅を走る茶色い影」という設定が,けっこう日常生活でもありそうなだけに,不気味さが増しています。
ジョン・コリア「葦毛に乗った女」
 女好きのリングウッドは,葦毛の馬に乗った美女に惚れ込み…
 欧米版『高野聖』(<ネタばれ反転)といったところでしょうか。ですから,途中でオチは見当がついてしまう難はありますが,軽快でユーモラスな文章で,サクサク読んでいけます。
ミンドレッド・オード「メリフロア博士の最後の患者」
 引退した医師には,ただひとり,奇妙な患者が残っていた…
 なんとも奇妙な手触りの作品。どこか「人ならざるもの」を思わせる“最後の患者”ミス・ラタリイ,その正体は?と物語が進むのかと思いきや,ラストで思わぬ結末。結局,彼女は何者だったのか? いやそれ以上に,主人公のメリフロア博士こそ何者だったのでしょうか?
E・C・タッブ「青二才」
 食屍鬼サニーの元に現れたのは,なりたての吸血鬼スミスだった…
 核戦争で人類がほとんど死滅し,地下シェルタにわずかに生き残った地球,そこでのモンスタは?という設定はおもしろいですし,またオチも,そこから導き出されるモンスタの「生存戦略」なのでしょうが,ストーリィの焦点がいまひとつはっきりしない感じでした。
リチャード・マティスン「吸血鬼などは−」
 夜な夜な,妻は吸血鬼に襲われ,衰弱していき…
 「吸血鬼は何者なのか?」というサスペンスが,ぐいぐいとストーリィを引っ張っていき,予想されうるオチではあるものの,前半の描写の緊迫感が,ラストとの落差を増大させているところが巧いですね。
ジョン・ヘイグ「ノンフィクション 吸血鬼の告白」
 9人もの男女を殺害し,その血を飲んだ「ロンドンの吸血鬼」ジョン・ヘイグが,獄中で書いたとされる手記。ただし,監修者は,その内容が「事実」かどうかについては,注意深く断言を避けています。

03/11/23読了

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