山口雅也『キッド・ピストルズの慢心―パンク=マザーグースの事件簿―』講談社ノベルス 1999年

 「パラレル英国」を舞台とした「キッド・ピストルズ・シリーズ」の第4作目です。といっても,わたしにとっては『冒涜』に続いて2作目です。創元推理文庫から『キッド・ピストルズの妄想』が出たので,積ん読だったのを大急ぎで読みました(笑)。
 5編が収録されています。

「キッド・ピストルズの慢心―キッド最初の事件―」
 マザー・グースの歌詞通りに,つぎつぎと自殺者が出る背後には…
 サブ・タイトルにありますように,主人公キッド・ピストルズが最初に遭遇した事件を描くとともに,キッドのプロフィールが彼自身によって語られます。事件の真相は,ミステリ的なトリック云々よりも,このシリーズの「主調低音」を表しているように思います。巻末に書かれた作者の「断り書き」は,作者自身のオリジナリティに対する自負なのでしょうか? それとも逃げ?
「靴の中の死体―クリスマスの密室―」
 アンソロジィ『密室』所収。感想文はこちら
「さらわれた幽霊」
 アンソロジィ『誘拐』所収。感想文はこちら
「執事の血」
 山中で立ち往生したキッドたち一行は,とある貴族の古城に辿り着き…
 キッドが事の真相に気づくきっかけが「知らなければわからない」系なので,ちょっと鼻白みました。もうひとつの真相についても,もう少し伏線のほしいところです。でもキッドの「貴族論」はじつにアイロニカルで楽しめ,もしかするとそこらへんがこのエピソードの眼目なのかもしれません。
「ピンク・ベラドンナの改心―ボンデージ殺人事件―」
 ピンクの友人で娼婦のデミーが惨殺された。そして現場には奇怪な血文字が残され…
 「慢心」とは対照的には,こちらは,キッドの相棒ピンク・ベラドンナの一人語りで進む作品です。SMネタはあまり好きではありませんが,ユーモラスな語り口のせいか,あまり気になりません。勉強になります(笑)。マザー・グースの歌詞が,ストレートに事件に結びついているわけではありませんが,それでいて重要なファクタになっているところは,この作者お得意の「ひねり技」といった感じで巧いですね。伏線もきっちり引かれており,既読作品をのぞくと,本集中一番楽しめました。それにしても,たしかにパンクは尾行には向きませんね(笑)

00/04/26読了

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