姉小路祐ほか『密室』角川文庫 1997年

 「密室」をテーマにしたアンソロジィです。「ニューウェーヴミステリ」作家8人の作品をおさめています。全体的な印象では,「もうちょっと期待したのに」といったところです。

姉小路祐「消えた背番号11」
 Jリーグ,関東ホワイティズvs京阪スカイの試合直前,ホワイティズのFW三沢のユニフォームが,密室状態のロッカールームから消えた!
 トリックそのものは,ちょっと危うい感じがしますが,発想はおもしろかったです。ただユニフォーム消失というのは,あんまり魅力的な謎とはいえませんね。
有栖川有栖「開かずの間の怪」
 江神部長をはじめとする“ぼく”たち4人は,幽霊屋敷と噂される古い病院で,一晩を過ごすことになり…
 ゲームでなかったら,すぐにばれてしまうような,ゲームならではのトリックというのも,やはりあるのでしょう。江神部長の推理は小気味よいです。
岩崎正吾「うば捨て山」
 祖母とともに登った,うば捨て伝説のある山。それ以来“ぼく”は変な夢を見るようになって…
 トリックそのものは現実味に乏しいですが,“うば捨て伝説”と“山ん婆伝説”とを結びつけ,またそれを“ぼくの夢”という形で描き出すところが秀逸です。
折原一「傾いた密室」
 覆面作家・西木香のもとに編集者からファックス。ファンの女性から密室殺人を解いてほしいという依頼なのだが…
 ファックスのやりとりだけで物語が進行する,いかにも折原一らしい作品です。トリックもオチは見当がついてしまいました。北○薫は怒らんのだろうか?
二階堂黎人「密室のユリ」
 女性作家・生田百合美が密室で殺された。その殺害シーンが録音されており…
 好意的に見れば「この作品の狙いは,密室のようで,じつは違うんだよ」ということなのでしょうが,それにしても,いまひとつ芸がない。
法月綸太郎「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」
 探偵リュウ・アーチャーは,行方不明の娘を捜し出すが,そこで密室殺人が…
 この結末について,(1)笑う,(2)怒る,(3)あきれる,(4)「メタミステリじゃあ!」と一声叫ぶ,(5)「パロディさ」とつぶやく,(6)他人事ながら法月氏のミステリ作家としての行く末を危惧する,人それぞれでしょうね。ちなみにわたしは…(いわぬが花(笑))
山口雅也「靴の中の死体 クリスマスの密室」
 老婦人から宝石紛失の捜査を依頼されたブル博士とキッド,ピンク。翌朝,周囲を雪で覆われた別宅で,老婦人の死体が発見され…
 いわゆる「雪密室」です。不可思議で,不自然な状況を合理的に解いていく,正統派密室ミステリです。スラプスティック風の伏線はこのひとの十八番ですね。
若竹七海「声たち」
 ある男が殺された。容疑者は6人。しかし彼らは録音テープによるアリバイがあった…
 一種の「逆密室」でしょうか。設定がなんとも凝っています。最後の一言に爆笑してしまいました。でも,一番おもしろかったのが,冒頭の“密室”だというのが,なんだかやるせないですね(笑)。

97/09/25

go back to "Novel's Room"