有栖川有栖ほか『誘拐』角川書店 1997年

 『密室』と同じように,「誘拐」をテーマにした8編よりなるアンソロジィです。おもしろい作品もいくつかあるのですが,全体としては“低空飛行”といった感じが否めません。新保博久の解説が一番おもしろいというのも考えものです。なぜかなぁ・・・。

有栖川有栖「二十世紀的誘拐」
 無名の画家の絵が盗まれた。身代金はわずか1000円。しかし盗難状況は不可解で…
 ヤング・アリスものです。タイトルはなにやら大仰ですが,トリックとしては小粒です。例によって“ゲーム・ミステリ”といったところでしょう。
五十嵐均「セコい誘拐」
 娘が誘拐され,身代金は3000万円。しかしバブル崩壊で金のない不動産業者はふと思いつき…
 発想がおもしろく,軽快なタッチで楽しめます。結末も皮肉っぽくていいですね。夏樹静子の実兄なんですね,この作者。
折原一「二重誘拐」
 原稿から逃げてドライブに出た覆面作家・西木香は,土砂降りの山中で遭難し…
 『ミザリー』のパロディですね。途中でネタ割れしてしまいますし,西村香の性格の悪さがなんとも後味悪い。
香納諒一「知らすべからず」
 十字路で事故死した男。彼のバッグからは大金と脅迫状が…
 設定はおもしろいのですが,もう一工夫ほしいところ。なぜか? ネタ割れしてしまうからです。気づけよ,刑事さん。
霞流一「スイカの脅迫状」
 葬式の朝,遺体が“誘拐”された。おまけに棺桶にはスイカが残され…
 登場人物が少なすぎるのが難点ですが(短編だから仕方がないでしょう),トリックとしては本作品集では一番凝ってます。相変わらずテンションの高い文章ですね。
法月綸太郎「トランスミッション」
 ある日,“僕”にかかってきた間違い電話。それが誘拐の脅迫電話だったことから…
 のりりんは,いつからミステリ作家からパロディ作家に転身したのだろう?
山口雅也「さらわれた幽霊」
 20年前に息子を誘拐された女優アン・ピープルズ。彼女のもとにふたたび同じ脅迫状が…
 やっぱりうまいですね,この作者は。最初の降霊術シーンが,うまい雰囲気作りになっています。伏線も効いてます。本作品集では一番楽しめました。
吉村達也「誰の眉?」
 祖父が孫を誘拐? 誘拐時,犯人が発した「ダリノマユ?」の持つ意味は…
 誘拐そのものの謎解きよりも,誘拐犯の心理の謎解きがメインの作品です。枚数の関係もあるのでしょうが,事件に先立つノイローゼ治療のところをもう少し描写がほしいところです。

97/11/11読了

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