山口雅也『キッド・ピストルズの冒涜』創元推理文庫 1997年

 警察よりも民間探偵が権力・権威を持っており,その民間探偵も「こちらの世界」ではフィクションの世界でしか存在しない名探偵の子孫たち,そしてパンクたちが警察の一員というパラレル英国。『生ける屍の死』で,死者が生き返ってしまうというとんでもない世界でのミステリを書いてしまった作者にとって,この程度のぶっとんだ設定もオチャノコサイサイ(死語)なのだろう。しかし設定はぶっとんでいても,内容はしっかり本格推理。エキセントリックな「名探偵」が現実の世界でリアリティがないのなら,「名探偵」がリアリティを持つ「世界」を創り出してしまおうと言う心意気は好きです。「新本格派」が生き残るためには,有効な方向性のひとつなのでしょう。また作者曰く,「世界初のマザー・グース・ミステリ連作の試み」だそうです。

「『むしゃむしゃ,ごくごく』殺人事件」
 50年間,自宅にこもって,ひたすら喰いまくって過ごした往年の美人女優の毒殺事件。限られた数人しか人に会わなかった彼女が,なぜ人と会おうとしたのか,という動機がちょっとなあ・・・・。
「カバは忘れない」
 経営不振の動物園長が殺された。彼の脇には,やはり殺されたペット(?)のカバが。 そしてダイイングメッセージ。不可解な謎と発想の転換による推理。なかなかおもしろいです。
「曲がった犯罪」
 ペットショップの主人が殺され,なぜか売り上げ台帳が盗まれていた。続いて起こる「オブジェ殺人」。なんかペダントリックな会話がファイロ・ヴァンスを彷彿させます。思わぬ伏線に,あっと驚きました。この作品集のなかで一番好きです。
「パンキー・レゲエ・殺人(マーダー)」
 
 右翼から脅迫状を送られていたレゲエ・ミュージシャンが殺される。現場は密室状況。犯人はテロリストなのか? フェル博士ならぬブル博士の密室講義があります。

97/02/25読了

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