梶尾真治『時空祝祭日』ハヤカワ文庫 1983年
タイトルは,ヘミングウェイの『移動祝祭日』のパロディなのでしょうが,敬虔な祈りから乱痴気騒ぎまでをも含む「祝祭」という言葉がじつによくフィット作品集です。お下劣パワー全開の作品から,せつない叙情テイストまで,この作者のさまざまな「顔」が楽しめる11編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。
「ローラ・スコネイルの怪物−B級怪物映画ファンたちへ−」
不可解な飛行機事故…その真の原因を知るのはひとりの少女だった…
「無垢の怪物」とひとりの少女との友情(愛情?),繰り返される悲劇と少女の悲壮な決意,「怪物」に対する「科学の勝利」などなど,サブ・タイトルにありますように,どこか「懐かしい風景」をたどりながら,最後を小気味よくまとめています。ひとりの男の「思い出話」という体裁も,笑みを誘うラストの雰囲気を高めています。
「静止人口六億人」
人口が増えすぎた日本では,出産は許可制になった…
ネタと,そこから導かれるであろうオチは見当がついてしまいますが,しだいしだいに「その状況」に追い込まれる,というか,突進していく主人公と,相手をする老人とのスラプスティクが笑えます。
「エミントンへ魚釣り」
調査隊によって“魚”らしき生物が確認されたエミントン星へ,彼は旅立った…
35年もかけて,未知の魚を釣りに行くという,ばかばかしく滑稽なシチュエーションなのですが,それでいて,ついに釣り上げた「結果」が,なんとも哀愁があります。同行(?)しているロボットの呟きも,その哀愁感を盛り上げています(こういった単純なセリフを効果的に使うのは「ちほう・の・じだい」と通じるものがありますね)。
「インフェルノンのつくりかた」
万能薬インフェルノンを作る天寿製薬に入社した男が見たものは…
一方で,「エマノン・シリーズ」に代表されるような,すぐれた叙情派SFを書きながら,その一方で,本作品のような悪趣味たっぷりの作品も書いてしまうところが,この作者の力量というか,節操のなさというか(笑) ラストのひねりはおもしろいですね。
「カクテルパーティ効果」
係長の藤井は,部下が悪口を言うと,どこからともなく現れ…
途中からSF的になっていくとはいえ,このネタがいったいどう展開するのだろうか?と思っているところへ,意外性のある,しかしそれでいながら「あ,なるほど」と納得してしまうようなエンディングに笑っちゃいました。ところでこのタイトルの意味はなんなんでしょう?(「カクテル・パーティ」のとき,自分の悪口がつい耳に入ってしまう,ということなのかな?)
「梨湖という虚像」
この作者の短編集『百光年ハネムーン』に所収。感想文はそちらに。
「百光年ハネムーン」
新エネルギー“ヤポニウム”を独占する大企業の社長は,玄孫からある惑星への旅行を勧められ…
『百光年ハネムーン』で,すでに読んでいたのですが,そのときはあまり印象に残りませんでした(同じ叙情派作品である「美亜へ贈る真珠」「おもいでエマノン」の印象が強かったせいかもしれません)。今回再読してみて,「なるほど,これはカジシン流『クリスマス・キャロル』なんだ」と思いました。それをベースとしながら,そこに「百光年」という空間的・時間的距離を「結びつける」SF的アイテムを上手に挿入しているところは巧いですね。
02/05/31読了
go back to "Novel's Room"