レイ・ブラッドベリ『黒いカーニバル』ハヤカワ文庫 1976年
「でも,ママ,待ちたくないんだってば。あんまり長く待ったら,おとなになって,おもしろくなくなっちゃうよ」(本書「巻貝」より)
この作者が1940〜50年代にかけて発表した初期短編・掌編24編を収録しています。うち11編は,第一短編集“Dark Carnival”からとられています。いずれも「ぞくり」とする凄みのようなものが感じられる作品です。
気に入った作品についてコメントします。
「詩」 夫が書いた見事な詩には,“世界”が包み込まれていた…
「言葉」は単に「世界」をなぞるだけなく,「世界」を作りだしているとも言われています。だからこそ,その「言葉」が「世界」を飲み込んでしまうなんてことも,もしかするとあるのかもしれません。本作品における「詩」から,人間にとっての「権力」「武力」のありようを思い浮かべてしまうのは,うがちすぎでしょうか?「死人」 樽の上に一日中座っているマーティンは言う「俺はもう死んでいるんだ」と…
騒々しい世界に対する嫌悪と,穏やかさ,静けさに対する愛情が感じられますが,そんな穏やかさ,静けさが安住しうるのは,本編で描かれるような場所にしかない,というところに,作者の諦念が見え隠れしています。「ほほえむ人びと」 彼は,家族にほほえんでほしかっただけなのだ…
オチは見当つきますが,主人公の狂気がじりじりと伝わってくるところがグッドです。ラストの視覚イメージもグロテスクで不気味ですね。「死の遊び」 子どもが子どもを殺す場面を目撃してしまった教師は…
この作品集には,「子ども」―「大人」とは異人種である「子ども」,なにやら得体の知れぬものとしての「子ども」―を取り上げた作品をいくつか含んでいます。この作品もそのひとつ。予想できる展開でありますが,ラスト・シーンは伏線が効いていて,楽しめます。「全額払い」 火星で地球の滅亡を目撃した男たちの前に火星人が現れ…
なんともやりきれない,ペシミスティックな作品です。男たちの傲岸不遜で狂気じみた行動の中に,地球滅亡の描かれざる理由が浮き彫りにされているように思います。「刺青の男」 奇怪な老婆によって全身に刺青をされた男を待っていたものは…
本編に出てくる「刺青男」というのは,本当に,かつて見世物小屋にいたのでしょうか? そこらへん実体験がないのでピンと来ないところもありますが,刺青が告げる不吉な未来,という発想がおもしろく読めました。ラスト・シーンの,眩暈感を呼び起こすような視覚的不気味さもいいですね。「みずうみ」 萩尾望都がマンガ化しています。感想は同じです(^^ゞ(<手抜き!)「戦争ごっこ」「バーン! おまえは死んだ!」 10歳の心を持つ17歳のジョニーにとって,戦争は遊びだった…
この2編は,ともにジョニー・クワイアというキャラクタを主人公にしています。実際の「戦争」に参加していながら,ジョニーにとってそれは「戦争ごっこ」でしかない。飛んでくる弾丸を,遊びと同じように避ければいいのだし,敵のドイツ兵も「死んだ」わけじゃなくて「死んだ真似」をしているだけ・・・。子どものように遊んでいるジョニーは助かり,大人として戦争をしていたメルターは死んでしまう・・・。作者がどのような意図で書いたのかはわかりませんが,読んでいて,言いようのない居心地の悪さと不気味さを感じました。「好き」とか「嫌い」,「つまらない」とか「おもしろい」といったことを超えて,いつまでも心の中に残りそうな作品です。
それと本作品の初出は1943・44年,まさに第二次世界大戦の最中です。これを読んだ当時のアメリカ人がどのように感じたのか,そちらの方も気になります。98/05/26読了
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