星野之宣『宗像教授異考録』第1集 小学館 2005年

 あのヒゲだるま(笑)が帰ってまいりました。なにはともあれ,めでたい!
 で,最初の第1話のカヴァ,本の詰まった書棚の前に立つ宗像教授,書棚に稗田礼二郎の著作がないかな,と見つめましたが,残念ながら未発見(ありますか?)。稗田の「活躍の場」は,おもにライバル集○社だからかな?などと邪推しちゃいました(笑)(稗田の書棚には,この作者の『巨人たちの伝説』が並んでいるんですがね(笑)>『海竜祭の夜』参照)

「第1話 巫女の血脈」
 かつての教え子の沈んだ様子に,宗像は,彼女の故郷・青森を訪れることにするが…
 伝奇作品の醍醐味は,「一見無関係に見えるモノを結びつける想像力」にあると言えます。このシリーズでも,作者の「伝奇的想像力」がぞんぶんに楽しめるエピソードが多いですが,シリーズ再開の最初の素材は,遮光器土偶イタコです。遮光器土偶と言えば,「宇宙人の姿をかたどった」などとトンデモ系では有名ですが(笑),そこはそこ,やはりこの作者,両者の意外なマッチングを描いています。さらにイタコの赤倉ハルの「生の有り様」を,時代の変遷の中で描き出すとともに,教え子津島涼子の哀しみを重ね合わせるというストーリィ・テリングは,卓抜したものがあります。「イタコをもっとも求める時代」の再到来を暗示するようなエンディングもグッドです。
「第2話 百足と龍」
 各地に残る百足と龍の抗争伝説…その背後に隠された歴史とは…
 宗像教授の復活にともなって,そのライバル(らしい)忌部捷一郎も再登場です。ただ髪型が変わってしまい,「うさんくささ」がややパワーダウンしているところが残念(オカマ言葉は健在ですが(笑))。で,この捷一郎の妹というのが,この作者の別の伝奇シリーズ『神南火』の主人公忌部神奈という裏設定が明らかにされます(あ,もう「裏」じゃないか(笑))。
 さて捷一郎は,例によって狂言回しですが,やはり本編のメインは,戦国時代の有名なライバル武田信玄vs上杉謙信の闘いを,「金山争奪戦」とする新解釈です。そこに伝説的な軍師山本勘助をからめての解釈は,妙に説得力があって,「そうなのかも?」と思わせるものがあります(信玄上洛の理由を,軍資金欠乏にともなう「最後の賭け」とするあたりもいいですね)。。
「第3話 天平のメリー・クリスマス」
 雑誌社の依頼で,群馬を訪れた宗像。そこで待っていた意外な人物とは…
 というわけで,忌部神奈,さっそくの登場です。イントロは,『神南火』所収の「第4話 沈黙の羊」に出てきた「多胡碑」「羊太夫」のお話ですが,いきなり飛んで「聖徳太子=キリスト教徒説」というトンデモナイ話へ……まあ「聖徳太子は存在しなかった」という説もあるくらいですから,これぐらいで驚いてはいけないのでしょうね(笑) 「兄にツバをかけたお返しよ…」が,いいですね。こんな「ツバ」,わたしもかけてほしい(笑)(それにしてもこの作家さん,映画タイトルのパロディが,けっこう多いですね)
「第4話 大天竺鶏足記」
 仏法協会の「おつき」で,インドを訪れた宗像。彼はそこで不思議な体験をする…
 やはり本編の最大の「衝撃」は,あの愛すべき雑誌編集者池麗美奈嬢が,退社していたことでしょう(笑)(退社は「3年前」となっており,彼女の最後(?)の出演作「龍神都市」所収の『宗像教授伝奇考 特別版』の刊行が2002年ですから,ちゃんと合っています)。鶏(あるいは鳥)と仏教との関係を,「あるもの」を媒介として結びつける奇想は,見事と言えましょう。たしかに「実物」は目にすることはなくとも,こういった形での「接触」は,十分にありえたかもしれませんよね。それにしても阿南くんがかわいそう。

05/09/18

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