星野之宣『宗像教授伝奇考』3巻 潮出版 1998年

 この作者の作品には,デビュウ以来描き続け,『2001夜物語』に代表されるようなSF作品の系列と,『妖女伝説』『ヤマタイカ』などの伝奇ものの系列があるように思います。
 この作品は,タイトルにありますように,後者の系列に属する作品です。

 主人公は,東亜文化大学の民俗学の教授・宗像伝奇(ただくす)。彼は,日本の古代文化の中に,製鉄を媒介として伝わった西アジアやヨーロッパ系の文化が隠れているという大胆な仮説を持っています(登場する女性編集者に言わせると「宗像センセにかかると,何でも外国から来たことになっちゃうんだから」だそうです(笑))。そんな彼が,日本各地で遭遇する,神話や伝説に絡んだ奇怪で不可思議な事件の数々を描いたシリーズです。

 本巻には,「佐用姫の河」「彗星王・羅侯編」「彗星王・計都編」「牛王の訪来」「瓜子姫殺人事件」「酒呑童子異聞」の6話5エピソードを収録しています(なお,「羅侯」の「侯」の字は,本来さらに「目」偏がつくのです。字がない・・・(T_T))。
 この中でおもしろかったのは,「彗星王」と「瓜子姫殺人事件」ですね。
 「彗星王」の方は,もう自由奔放な想像力でもって,日本神話,日本古代史,さらにはインド神話やら中国古代史やらをまぜこぜにして,彗星とスサノオ,アマテラス,邪馬台国卑弥呼などを結びつけた奇想天外,荒唐無稽なお話です。おまけに前方後円墳の形を彗星に結びつけるあたり,『ヤマタイカ』で見せた,この作者の伝奇的想像力がいかんなく発揮されているように思います。またこの作品には,朝鮮半島からの渡来人・秦(はた)氏の子孫である,「秦元総理」というのが出てくるのですが,やはりどうしても「羽田元総理」を連想させるもので,もしかして現実の「羽田元総理」も「秦氏」の子孫なんじゃないか? などと楽しい空想にひたらせてくれます。
 もうひとつの「瓜子姫殺人事件」は,「瓜子姫伝説」と,グリム童話の「シンデレラ」とのストーリィ的類似性を指摘するところもおもしろかったですが,それとともに作中で起こる殺人事件の謎解きも絡んできて,松本清張の作品を彷彿させるミステリ仕立ての作品で,楽しめました。それと,真犯人が見たかもしれない幻影,巨木に寄り添うように浮き上がる女たちの姿は,ぞくりとする怖さがありますね。

 ところで,日本神話のスサノオといえば,諸星大二郎の『暗黒神話』を思い出しますし,また「稗田礼二郎シリーズ」では「瓜子姫伝説」も取り上げていました。ふたりは『少年ジャンプ』で,ほぼ同時期にメジャーデビュウをした作家さんですが,まったく異なる作家的資質を持っていると思われていたふたりが,同じような素材を用いて,同じような伝奇ジャンルでのおもしろい作品を発表するというのも,なにやら因縁めいたものを感じますね。もちろん作品の仕上がり,テイストはまったく違いますけどね。

98/05/18

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