高橋葉介『KUROKO−黒衣−』4巻 秋田書店 2001年

 「あの人にとって自分の子供の記憶は,悲しい思い出と同じくらい大事な宝物だと思うから・・・だから俺には何も出来ない」(本書 真紅郎のセリフ)

 金牙と銀河の執拗かつ強力な攻撃から,からくも逃れることのできた真紅郎と紫奈乃。だが,彼らを待ち受けていたのは,さらに恐るべき事態だった。覚醒した黄華=“名無しの神”は,地球上のあらゆる生命を“情報”へと還元させていく。果たして真紅郎は,黄華を,そして世界を救うことができるのか・・・

 巷間で囁かれる都市伝説・・・じつはその背後には人知れず活動する“黒衣”がいて・・・そんな連作短編といった体裁で展開してきた本シリーズですが,最後にいたって思わぬ大転回! 正直,戸惑ってしまいました。
 たしかにこの作者にも,短編ながら,「龍神伝説」「妖獣の女王」といった「大きな話」はあることはあるんですが,コメディや「背景」としではなく,「人類の滅亡」や「神」といったネタを正面から持ち出してくる作品は,ヨースケ作品としてはけっこう異色なのではないでしょうか(まぁ,「神」といってもクトゥルフ神話系の「神」ですので,そのへんはこの作者らしいですが)。

 もちろん,このようなラストへと向かうまでの伏線はありました。たとえば,物語の謎の「核心」とも言える黄華の異形化した姿,その彼女をめぐる政治家たちの暗躍,さらに「表黒衣」「裏黒衣」という伝奇的設定などなど・・・
 しかし,これは偏見かもしれませんが,わたしのヨースケ作品に対するイメージからすると,こういった設定も,一般社会の「目」からは隠された「世界」での出来事として収束するのではないかと想像していました。タイトルにあるように「黒衣(くろこ)」の世界の出来事として・・・
 けれども物語は,クライマクスにいたって,全人類を巻き込んだカタストロフへと雪崩れ込んでいきます。当ページの掲示板で何人かの方がご指摘されていたように,このような前半から後半へのトーンの変化は,永井豪『デビルマン』を彷彿とさせますし,“名無しの神”によって人間が“情報”へと還元されていくところは『新世紀エヴァンゲリオン』を連想させるものがあります。
 そういった点で,やや「見慣れた光景」といった感があるものの,コメディ・タッチを一転させてせつなく描いたおばば様の最後,銀河をも飲み込み,野望を遂げようとした金牙の末路,真紅郎紫奈乃が,本当の「黒衣」になる「理由」などなど,二転三転するクライマクス・シーンは,意外性とスピード感があって楽しめました。
 まあ,いずれにしろ「ヨースケの奇妙な世界」の中では,ユニークなスタンスの作品でしょう。

 ところで,ことの「真相」を作家荒松健太郎(笑)から聞いた編集者杉下ミドリが言うセリフ 「“ローリング・ストーンズ社”にも送ってやった」の元ネタは,スティーヴン・キング『ファイアスターター』でしょうね(映画版ではニューヨーク・タイムス社に変更されてましたが・・・ あれ? ワシントン・ポスト社だったかな?)。

01/10/22

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