高橋葉介『ここに愛の手を』朝日ソノラマ 1999年

 新旧取り混ぜた短編掌編を収録しています。

「ここに愛の手を」
 最近,街角ではやたらと募金活動が目立つのだが,その裏には…
 真剣にされている方には失礼かもしれませんが,街頭の募金活動が持つ,一種独特の「オーラ」にはどうも腰が引けてしまうところがあります。あるいはまた,この作品ほどではないにしろ,いかにも「怪しげ」な募金活動もときおり目にします。そんな募金活動に感じる「居心地の悪さ」のようなものを,思いっきり拡大させた作品だと思います。ですから,帯にある「社会性と幻想性の見事な融和」という紹介文は,ちょっとピントがずれているようにも思います。
「妖獣の女王」
 鉄砲水の被害地で発見されたひとりの少女。しかし彼女の正体は…
 『猟鬼博士』に収録された「竜神伝説」と同様,初出は『少年ビッグコミック』で,やはり物語の背景はかなり「大きい」のですが,こちらの方がすっきりまとまっていて楽しめますね。「クトゥルフ神話」のワン・エピソードのような作品です。ちょっとあぶなそうな(笑)扶桑幸四郎と,とぼけた感じののキャラクタがいいですね。幸四郎は夢幻狂四郎そっくりですし(笑)。
「海妖」「夜の顔」「壺」「ワイン」「蝶」「毛むくじゃらの手」
 雑誌『スコラ』などに掲載されたショート・ストーリィです。わたしとしては,なんだか「もしかしたら,あるんじゃないか?」とニヤリとさせられる「海妖」,いかにも綺譚風の「壺」が好きです。ところで「蝶」のネタは,この作者,何回か使い回してますね(笑)。
「テレパス」
 「テレパス」をネタにした掌編3編よりなります。2本目の「電話ネタ」は,小咄みたいで,つい笑っちゃいます。しんみりとした3本目もグッドです。
「河童」
 入水自殺しようとした男は,そこで河童と出逢い…
 初出が『ホラーハウス』とはとても思えない,さながら「現代の民話」といった,ほんわかテイストの作品です。河童が頭の上の「皿」で酒を味わうというのがおもしろいですね。もしかして,こういった言い伝えが本当にあるのかな?
「無題」
 病気で寝たきりの少年は,迷い込んだ鳥の足首に手紙をつけて空に飛ばす。だが,その手紙が呼び寄せたものは…
 「赤ずきんちゃん」をネタにしたブラックなお話です。前半のほのぼのとした展開と,ショッキングな後半のコントラストが鮮やかです。思いも寄らぬ方法で人間にアプローチするからこそ,「魔」は「魔」と呼ばれるのかもしれません。
「獣太郎とあたし」
 お母さんが弟を産んだ。でも弟はやっぱりどこかヘンだ…
 愛らしい乳幼児がじつは「魔性のもの」だった,というパターンの作品はしばしば見かけますが,この作品では,子どもは最初っから,しっかりと「化け物」で,思わず笑っちゃいます。でも,獣太郎の「姿」は,もしかすると「あたし」にしか見えないのかもしれません。
「しらべ」「雨乞い」「お客様」「顔」
 なんとも懐かしい『少年少女SFマンガ競作大全集』に掲載されたショート・ストーリィです。せつないメルヘン「しらべ」,グロテスクなイメージが不気味な「雨乞い」,シュールな「お客様」,ブラックなオチが楽しい無言劇「顔」など,いずれも秀逸な作品が揃っています。

99/12/03

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