高橋留美子『犬夜叉』29巻 小学館 2003年

 白霊山の強力な結界の中で,ついに“新しい体”を手に入れた奈落。“風の傷”さえも楽々とはね返す奈落の真の目標は,しかし,犬夜叉ではなく桔梗にあった。自分の中に残る鬼蜘蛛の「桔梗を慕う心」を追い出すことで,完全なる妖怪へと変貌し,桔梗を殺すことだったのだ。桔梗の死のため,心の揺れる犬夜叉とかごめ。そんな彼らに新たな魔手が迫る…

 ついに「白霊山編」終結です。まさかこういった展開になるとは…いやぁ,まいりました。完敗です。
 「鬼蜘蛛=人間の心」が残っているがゆえに,「半妖」であった奈落。そこらへんが,最終決戦における犬夜叉たちの攻撃ポイントとなるのではないかと予想していたのですが,このエピソードで,奈落は完全な妖怪へと変貌してしまいます。このあたり,かつて登場した奈落の分身無双第2122巻)をめぐるエピソードが結びついてくるところは,巧いですね。
 そして桔梗の殺害。まあ,「メイン・キャラは死体が描かれない限り,その生死は保留しておいた方がいい」というマンガ界の「鉄則(笑)」があるとは言え,これはなかなかショッキングです。また,これまですっかり忘れていましたが,桔梗の身体が,いわゆる「生身」ではなく,「骨と土でできたまがいもの」ということを,しっかり描き込んでいるところも,思わず感心してしまいました。

 さて犬夜叉たちの前から,ふたたび姿を消した奈落。しかし彼は「鬼蜘蛛の心」を,神楽に託して残していきます。この赤ん坊の形をした「鬼蜘蛛」(まだ名前は出てこないので,暫定的にこう呼んでおきます),これがまたじつに憎々しくて良いですね。でもって,かごめたちに攻撃を仕掛けるアプローチがまた,これまでのストーリィ展開をしっかり踏まえたものであり,説得力のあるものです。
 つまり,その攻撃対象とは,かごめの「心の闇」であります。18巻の感想文でも書きましたように,この物語は,犬夜叉=桔梗=かごめをめぐる愛憎劇という一面を持っています。犬夜叉の心の中に残る桔梗への思い…それが,かごめにとって辛い恋となっています。鬼蜘蛛が狙ったのは,まさにその桔梗に対する,かごめの嫉妬や憎しみ−「心の闇」だったわけです。
 「その女にもつけいるスキはいくらでもある。犬夜叉,きさまが桔梗を忘れん限りはな…」という不気味なセリフを残して去った鬼蜘蛛。これも18巻の感想文で書きましたが,「桔梗を思う心」を持ったままの犬夜叉を愛そうとしたかごめ。彼女は果たしてそれを貫き通せるのか? かごめと,そして犬夜叉に対する厳しい試練がはじまりそうです。

 本巻最後のエピソードは「鬼女の里編」。戦乱を避け,女だけが住むという集落。しかしそこには,人を喰らう妖怪がおり…てな展開のお話。はたしてこの話が,メイン・ストーリィに関わるのかどうかは,今のところなんとも言えませんが,どうやら悲恋がらみになっていきそう。「邪気」よりも「殺気」が怖い(笑)弥勒の活躍は如何?

 ところで,白霊山の崩壊にともなって,放たれた妖怪たちが通り過ぎた村では,村人たちが一瞬にして白骨と化してしまうというシーン。これを見て,とんでもなく古い映画『ゴジラ対ヘドラ』を思い出してしまったわたしは,しっかり御達者倶楽部ですね^^;;(あの映画,怖かったんだよぉ〜(ToT))

03/03/21

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