高橋留美子『犬夜叉』22巻 小学館 2001年

 奈落の臭いをプンプンさせる妖怪・無双。だが無双は自分が何者なのか知らぬげな様子。そして犬夜叉との戦いの最中,無双の口から意外な名前が出る・・・「桔梗」と。いったい無双の正体とは?

 というわけで,本巻前半は「顔のない男編」の続きであります。
 この無双を名乗る妖怪の設定は,なかなかユニークでおもしろいですね。かつて桔梗にあさましい欲望を抱き,そのために自らの身体を妖怪に明け渡した野党鬼蜘蛛,その結果,奈落が産み出されたわけですが,この奈落と鬼蜘蛛との関係,後者が前者の母胎という単純なものではないようですね。妖怪になるために,人間であった鬼蜘蛛の「心」は不要。しかしそれでも無双の強力な再生能力は,奈落の「身体」には必要,という設定です。
 それゆえ奈落は,いったん捨てた無双をふたたび取り込みます。いわば奈落はその内に「人間的弱さ」を抱え込むわけです。これはひとつの「爆弾」となる可能性はないでしょうか? 冷酷無比が身上の妖怪にとって,鬼蜘蛛の,人間の「欲望」がどのような役割を果たすのか,今後の展開に注目です。
 ところで,奈落の意図を正確に読みとった犬夜叉に対して,奈落曰く「ほお・・・犬夜叉。おまえの頭もたまにはものを考えるのだな」(笑) たしかにこの手の推理は,これまでどちらかというと弥勒の役回りだったようですから,奈落からこんなことを言われるのも仕方ないかな?^^;;

 さて後半は「百鬼蝙蝠編」です。しだいに強力になる奈落に対して「風の傷」では対抗できなくなったことを知った犬夜叉。冥加じじいの助言を受け,より強い力を持った妖怪を斬ることで鉄砕牙を強くしようとします。そして犬夜叉一行は,強力な結界を張る半妖紫織と出会います。
 このエピソードのポイントはふたつでしょう。ひとつは紫織の母親のセリフです。「半妖だからって妖怪に劣っているわけじゃないし,人間に劣ってるわけじゃないってこと・・・」かごめと出会うことで,かなり解消されてきたとはいえ,犬夜叉は,自分が妖怪でもなく人間もない「中途半端」な存在であることに深いコンプレックスを抱いています。それが「強くなりたい」という彼のモチベーションとなっていました。このセリフは,半妖の娘を持つ母親から語られた言葉だからこそ,説得力の富むものになっています。もっとも犬夜叉の感想は「さーな」ですけど(笑)
 もうひとつのポイントは,犬夜叉の紫織に対する態度でしょう。上にも書きましたように,犬夜叉は「強くなりたい」という願望があります。しかし,その「強く」なることが,かごめたちを傷つける危険を秘めていることを自覚しています。「強さのコントロール」は犬夜叉に与えられた新たな課題だったと言えます(20巻感想文参照)。このエピソードでの犬夜叉の選択は,彼が獲得した「抑制する強さ」の現れなのでしょう。

01/08/16

go back to "Comic's Room"