高橋葉介『学校怪談』9巻 1998年

 6巻で,九段九鬼子先生が登場して以来,このシリーズの雰囲気もずいぶん変わりましたが,神宮寺八千華が新たなメインキャラとして加わった前巻から,ますますスラプスティック・コメディの色合いが強くなってきましたね。こういった,少年探偵版の『夢幻紳士』みたいな感じのノリも嫌いではありませんが,かつての不気味でブラックな,タイトル通り“怪談”色の強い作品もまた読みたいものです。

 さてその神宮寺八千華,この巻では大活躍というか,大暴れというか,山岸くんやら立石さん,そして九鬼子先生を,思う存分,振り回します。とくに,八千華,山岸くんになんやかやと急接近,立石さんをやきもきさせます。そんな彼女の様子を面白がってか,八千華はますます山岸くんにつきまといます。といっても,八千華にとって山岸くんは「電池を入れなくても動くおもしろいオモチャ程度」にしか思っていないようですが(笑)。

 この巻でおもしろかったのは,八千華に引っぱり出されて胃ノ頭公園(笑)に来た山岸くんが,餓鬼亡者に追いかけられるという,「おいてけ堀」ならぬ「第145話 おいてけ森」,偶然街で会った九鬼子先生と立石さんが,日比野先生の娘さんを捜す「第146話 人形の森」,久々登場,塚原くんと奈々子ちゃんが,胃ノ頭公園で待ち合わせ中,池に住む“水の怪”に遭遇するという「第147話 水の中の顔」,そしてUFOおたくの玉川くんが,UFOを呼ぼうとして,なにやらわけのわからないものを呼び出してみんなが迷惑するという(笑)「第148話 此処じゃない何処かへ」の一連のエピソードです。
 じつはこの4つのエピソード,いずれも胃ノ頭公園を舞台にした1日の出来事を描いています。このような,ひとつの場所や状況で,異なる複数のエピソードが並列して描かれ,それらがニアミスを繰り返しながら,最後に結びつけられるという体裁の物語構造というのは,サスペンス小説などにしばしば見られる構造で,個人的にけっこう好きです。
 内容的にも,公園に捨てられた人形が母娘になるという「人形の森」や,ラストがせつない「此処じゃない何処かへ」などが,しみじみとした感じでお気に入りです。

 またこの巻でも新キャラ登場,九鬼子先生に思いを寄せる物好きな(笑)ストーカー,溝呂木某であります。このおにいさん(?)もいろいろと奇妙な“術”を使い,「第155話 感染経路」では,自分の身体の一部を,山岸くん,立石さん,八千華を通じて,九鬼子先生に“感染”させるという,なかなか不気味なヤツです。でも,なにか仕掛けるたびに九鬼子先生の返り討ちにあって,彼女のお相手としてはまだまだ修行不足のようです(でも九鬼子先生のことを“クッキー”と呼ぶところが,ちょっと可愛いです(笑))。
 ところで「溝呂木」というのは,『夢幻外伝』にも出てくる,怪奇編・夢幻魔美也の“天敵”の名前です(『羊たちの沈黙』に出てくる,“ハンニバル”レクターみたいなおっさんです)。8巻で描かれていますように,九鬼子先生は魔美也の子孫のようですから,この溝呂木某も,じつは,魔美也の天敵の「溝呂木博士」の子孫,というような裏設定を想像させます。どうなんでしょうね?

98/05/16

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