高橋葉介『夢幻外伝 夜の劇場』朝日ソノラマ
 作者によれば,本編の主人公・夢幻魔実也は,3人いるのです。かつて朝日ソノラマから刊行されていた『マンガ少年』版の夢幻魔実也,徳間書店刊の『アニメージュコミック』版の夢幻魔実也とそのご一行(父親と母親が強烈なんだ,これがまた),そして『怪奇編』に登場する夢幻魔実也です。

 まえのふたつの魔実也が奇想天外で,底抜けに明るい少年探偵であるのに対して,『怪奇編』の魔実也は,切れ長のまなこも見目麗しく,酒もたばこもたしなみ,それにどうも女性に手が早い,クールでダンディな大人です。おまけに超能力まで持っています。そんな彼が依頼されたり,巻き込まれたりする怪奇な事件簿が『怪奇編』です。ここで紹介する『夢幻外伝』の魔実也は,出版社は違いますが,「怪奇編」の流れを汲むものです。

 『夢幻外伝』は3冊出ていて,そのうち第2巻『夜の劇場』の表題作「夜の劇場」が私のお気に入りです。

 矢野浩二と立花美里。ふたりは互いに理想的な恋人同士。ある日,美里が浩二に相談する。何者かが彼女に脅迫状を送ってくるという。また不気味な影のような男がつきまとっているという。「大丈夫,ぼくが守ってやるよ」と答える浩二の独白。「じつはその影のような男は僕なんだ。小さな不安は恋のスパイスさ」。つづいて美里の独白「影のような男なんてみんな嘘。浩二さんはこんな不安な私を守ってくれるすてきなナイト」。そして「影」の独白。「俺はあの二人がねたましい。脅迫状を送り,尾けてやった。ところが,ますます二人は強く抱き合うだけだ。こうなったらやるまでだ。さらうのだ。殺すのだ。男を? 女を? どちらでもいい」。魔実也は浩二から依頼される「美里が男に連れ去られた」と。そして美里からも依頼される「浩二が男にさらわれた」と。錯綜し,矛盾する独白と依頼。魔実也が行き着いた真相は・・・。人の心の不可思議さ,恐ろしさが味わえます。

 もうひとつ,第3巻『目隠し鬼』に収録されている「首おくれ」も,ブラックメルヘン風の無言劇で気に入ってます。

 高橋葉介の作品についてはまだまだ紹介したものがいっぱいあるのですが,それはまたいずれ(いつだろう?)


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