青池保子『エロイカより愛をこめて』5巻 秋田文庫 1998年

 EC博に出品されたイギリスの宝冠,ところがそれを囲むガラスに,軍事機密であるグラス・ファイバーが誤って用いられてしまった! 宝冠護衛を任されていたエーベルバッハ少佐の任務は,グラス・ファイバー護衛へと急遽変更されたが・・・,という『NO.10 グラス・ターゲット』の「Part2」「Part3」であります。でも,一連のエピソードなのに,なんで「Part2」と「Part3」に分けられてるんだろう? 途中に休載期間でもはさまれているのかな?
 この巻は,前巻で,「陰険なドイツ人」の手によって,きわめて手の込んだ陰湿な罠にはまった伯爵の「復讐編」(笑)でもあります。「喧嘩をすると,喧嘩相手に似てくる」という俗諺がありますように,陰険な相手に対しては,やはり,その復讐も陰険になるのでしょう。少佐に変装した伯爵が写った1枚の写真・・・・。
「若い兵隊にひっついてうれしそうに歯を出して笑う」「見るからにスケベなホモ上官」
 まさに少佐が嫌いまくる部長そのものですな(爆笑)。相手のもっとも嫌がるであろうことを,的確に見極め,それを良心の呵責もなく実行する態度,あきらかに少佐と伯爵は,「似たもの同士」であります(笑)。

 さて,中東から無事帰還した伯爵は,EC博の宝冠奪取を計画しますが,おりからネオ・ナチスによるEC博会場爆破の予告! さらに“ドイツ・シェパード”こと少佐の行動に不審を抱くKGB,と,三つ巴,四つ巴(って,言葉は変)の様相を呈し,EC博会場は緊張につつまれます。もっともSISのロレンスくんは相変わらずマイペースですが・・・。そしてエリザベス女王とシュミット首相を会場に迎えて,いよいよ物語はクライマックスを迎えます。
 それにしても,エリザベス女王の訪独を告げるアナウンサのセリフ
「チャールズ皇太子のご婚約という明るいニュースにおよろこびの女王陛下」
う〜む,時の流れというのは,なんとも残酷なものであります・・・。

 ところで,2巻「NO3. 劇的な春」で,「東西両首脳」の会談を,やはりネオ・ナチスが爆破しようとするエピソードが描かれましたが,このときは,「東西両首脳」というだけで,固有名詞は出てこず,またその顔もけっこういい加減です。ところが,3巻「No.8 来た 見た 勝った!」で出てきたローマ法王は,かなり似せて描かれていますし,この巻のシュミット首相やエリザベス女王は,固有名詞を出すとともに,顔ももちろん似ています。たぶんにパロディ的な色彩はあるものの,こういった現実に立脚した細部のリアルさが,作品の雰囲気をずいぶんと変えていっているように思います。 

 本巻には,もう1編「番外編 ミッドナイト・コレクター[Part1]」が収録されています。前巻の「番外編 特別休暇命令」が少佐の少年時代のエピソードが絡められていたのに対し,こちらは伯爵の少年時代。親が歪んでいると子どもも歪む,子どもは家庭教育が大事というお話(笑)。
 エーベルバッハ家のご先祖を描いた「紫を着る男」をロンドンで売り払ってしまおうとする少佐,子どもの頃からの憧れの絵画「若い牧人」を狙う伯爵,そこに金の力で芸術を買いあさるクウェートの若きオイル・ダラーが加わって,はたして「紫を着る男」の行く末は? というストーリィです。まだ完結していませんが,このオイル・ダラー,たしかこの次のエピソードあたりで,本格的に少佐や伯爵に関わってくるんじゃありませんでしたっけ? どうだったかなぁ・・・記憶あやふや。まぁ,それは次巻のお楽しみ,ということで。
 それにしても伯爵,いくら窓際で格好つけても,その長髪で隠れた背中には,ピップ・エレキバンが!(笑)。

98/05/21

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