青池保子『エロイカより愛をこめて』4巻 秋田文庫 1998年

 マンガの文庫版カヴァーには,しばしば作者以外のデザイナや作画者の絵が用いられるときがあります。じつのところ,これまで,わたしはそれがあまり好きではありませんでした。なによりもそのマンガのキャラクタが持っているオリジナルの魅力を壊しているような気がしてならないからです(とくに白○社の文庫カヴァー!)。
 しかしこの『エロイカ』文庫版のカヴァーを描いている坂内和則という人の絵は,なかなか迫力があって好きです。この巻のカヴァーでは,少佐ミーシャが至近距離で互いに銃を突きつけ合うという,緊迫感のある構図で,中央に描かれたミグ25戦闘機と軍用ヘリとよくマッチしています。少佐の顔がちょっと老けているのが残念ですが(笑)。

 さて本巻はまず,3巻の続き,アラスカの湖底に沈むゲーリング・コレクションと偽ドル紙幣の原版をめぐって,少佐・伯爵・ミーシャが三つ巴の争奪戦を繰り広げる「No.9 アラスカ最前線」のPart2です。
 はっきりいって,このエピソードは,作者がむちゃくちゃノッてるという感じですね。伯爵・少佐・ミーシャという,このシリーズの「魔の三角関係」(笑)が完全に定着し,それぞれのキャラの個性がいかんなく発揮されています。とくにアラスカの廃小屋での3人の絡みは一方で大笑いしつつ,その一方で手に汗に握るシーンです(「その傷,なめてやろうか」「あ,果てないで・・・少佐」が好きです)。
 またストーリィ的にも,アラスカからベーリング海峡,ソ連の原子力潜水艦,シベリア,ミグ25による脱出,そして太平洋ハワイ,という展開は秀逸です。「No.8 来た 見た 勝った!」も好きなのですが,ローマ法王誘拐以後,少々冗漫な感じがするのに対し,このエピソードの「あれよあれよ」という感じのスピード感ある展開は,最後まで飽きさせません。
 ジェイムス君がゴムボートでベーリング海を漂流していてソ連原潜に回収される(笑)シーンも,クライマックスでの少佐たちのシベリア脱出の際の伏線になっていたりして,楽しめました。ジェイムス君がいなけりゃ,偽ドル紙幣の原版も持ち出されることはなかったし,そうなると少佐が伯爵たちをミグ25で護衛する必要もありませんでしたからねぇ。
 いままでのところ,キャラ的にもストーリィ的にもピカイチのエピソードですね,この話は。

 そしておつぎは「番外編 特別休暇命令」。ついに「エロイカ抜き」の『エロイカ』です。メインは少佐の少年・青年時代のお話ですが,たんに思い出話だけでなく,NATOの情報部長・人事部長・経理課長による「『鉄のクラウス』マイホーム・パパ化作戦」を絡めて描くあたり,お話づくりの巧さを感じます。「新生児の講釈をするくらいなら,ミサイルかかえて自爆してやる!」という少佐のモノローグにも出ているように,彼をマイホーム・パパにしようなんて作戦,あまりに無謀ですよね。こんな計画たてるんだから,部長も万年部長のはずだ・・・。
 そしてこのエピソードの見所は,やっぱり,若き日の少佐の,
「はい,お父さん!」
でしょうね(笑)。それと今やスダレ頭と化してしまった執事さんの若い頃がちらりと出てきますが,すでに頭髪が後退しつつあるところが,なんとも芸が細かくて心憎いです。

 ラストは「No.10 グラス・ターゲット[Part1]」です。ドイツ・ケルンでの「EC博」に出品されるビクトリア女王の宝冠。それを盗みだそうとする伯爵。少佐は,イギリスのSISと協力して,EC博の警備を任されますが・・・。
 ついに出ました! SISのチャールズ・ローレンス! このマニアックなアナクロニズムの権化ローレンス君はいいですねぇ。お堅い諜報業界とはいえ,イギリス人っていうのはこんなもんなんでしょうね(<ひでぇ偏見(笑))。
 このエピソードはまだ始まったばかりなので,感想は次巻で書くつもりですが,一番大笑いしたのは,伯爵のちょっと長めのセリフです。
「そいつは私の趣味や性格をよく知った上で私がひっかかりそうなエサを作れる人間だ。
そしてやたらと大がかりなことが好きで,あくどいいやがらせを平気でやれる歪んだ性格の持ち主。
ここにある男のにおいを感じないかね?
こういう事をやるのは・・・・・・あのドイツ人しかいない!!」

 でもこういう性格って,伯爵にもけっこう当てはまるんじゃないですか?(笑)

98/03/15

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