青池保子『エロイカより愛をこめて』3巻 秋田文庫 1998年

 さて本巻はまず,2巻からの続き「No.7 ハレルヤ・エクスプレス」のクライマックスです。ローマへ向かう少佐伯爵を抹殺するため,ミーシャは非情の罠を仕掛けます。それを阻止すべく,少佐と伯爵は一致団結(?),爆走する列車の屋上からの狙撃という離れ技を演じます。なかなか緊迫のあるシーンです。同じ機関銃でも,伯爵がもつと「おもちゃ」に見えるのに,少佐がもつとしっかり「武器」に見えるところがおもしろいですね。やっぱり軍人と民間泥棒との違いなのでしょう。
 ところで『20巻』「No.16 熊猫的迷宮」で,少佐が中国人スパイに対して「おれは長年,旧KGBと戦ってきたが,相互に一般民間人を巻き込む事を禁則としたルールがあった」といってますが,ミーシャも登場当初は,しっかり民間人を巻き込んでますね(笑)。きっと作者が連載中にミーシャに愛着がわいてきて,あんまり無道な行いをさせないようにしていったのかも知れません。

 「No.8 来た 見た 勝った!」は,無事ローマについた少佐と伯爵が,いよいよ機密を盗み出すため,全世界7億5000万人のカソリック教徒の総本山・ヴァチカンへと侵入します。このエピソードはけっこうすきなんですよね。機密奪取の条件に,伯爵は少佐にフリータイムを10分だけほしいと要求,少佐は了解するのですが,伯爵がヴァチカンから盗みだしたものは,なんとローマ法王! 最初に読んだときは,その大胆な発想に,思わず大爆笑してしまいましたね,ほんと。このエピソード以来,『エロイカ』にはまり込んでしまったといって過言ではないでしょう。
 それともうひとつ,お気に入りのシーンは,カタコンベからヴァチカンに忍び込もうとする少佐と伯爵の会話。
伯爵「カタコンベの中で不謹慎な事はしないよ」
少佐「神にかけて誓うか!」
伯爵「誓うよ!」
(中略)
伯爵「ところで少佐,実は私は無神論者なんだが・・・・」
少佐「おれもだ」
 ところでこのエピソードに出てくる「かんおけ刑事」フランコ・ジュリアーニっておじさん,マカロニ・ウェスタンの映画に出てくる棺桶を引きずるガン・マンのパロディですかね?(誰でしたっけ? この役者さん。ジャン・ポール・ヴェルモンドだったかな?<かなりいい加減(笑)))

 「No.9 アラスカ最前線[Part1]」は,多くの部下をアラスカ送りにしてきた(?)少佐自身が,部下を引き連れアラスカに行くというエピソード。任務は,湖に沈む第二次大戦中の飛行機から,偽ドル紙幣の原版とゲーリングが集めた美術品の回収すること。でもって,例によって少佐と伯爵,そして復活したミーシャの三つ巴の争奪戦です。途中,二重スパイのエピソードなどを含み,ストーリー的にはなかなかハードに進んでいきます。でも,アラスカへ向かう,陽気な伯爵ご一行と,陰々滅々な少佐ご一行の対照がなんとも笑えます。さてさて,これからも起こるであろう「アラスカの怪奇現象(笑)」が楽しみです。

98/01/15

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