青池保子『エロイカより愛をこめて』24巻 秋田書店 1998年

 まず前巻からのつづき「エーベルバッハ中佐(後編)」です。
 誘拐事件をでっち上げ,中佐(<「少佐」のことです)をふたたび情報部へ復帰させようと企む伯爵とロレンス。ところがダミーのつもりだった誘拐事件が本当に発生してしまい,おまけに犯人たちは中佐のいる野戦演習場に逃亡・・・ということで,中佐は,彼らとともに誘拐犯を追うという展開です(ううぅぅ・・・「中佐」「中佐」と書いてて,どうも落ち着かないなぁ・・・やっぱり彼は「少佐」ですよねぇ・・・伯爵やロレンスの気持ちがよくわかります(笑))。
 ところで,「鉄のクラウス」復活を目指す伯爵とロレンス,すさまじいライバル心を燃やし,互いに牽制し合いますが,そのお間抜けぶりがなんとも楽しいです。
 で,ふたりの陰謀が功を奏して(?),中佐はNATO情報部へ復帰することになります。「万年少佐」ならぬ「出戻り少佐」です。めでたし,めでたし・・・(などといったら少佐に殴られますね)。

 さてその復帰後(?)最初のエピソードが「No.18 パリスの審判[Part1]」です。第二次大戦中,スターリンによって略奪されたドイツの名画「パリスの審判」がドイツに返還されることに・・・。そのセレモニィでの警護を命ぜられた少佐ら情報部一行はロシアへ飛びます。「鉄のクラウス」が出張る以上,お相手はもちろん「仔熊のミーシャ」と「白クマ」。別のルートでそれを聞きつけた伯爵もまたロシアへ,まんまと「パリスの審判」を盗み出します。ところが,元KGBでロシア・マフィアのデムチェンコにより,「パリスの審判」は贋作にすり替えられており,それを知った伯爵は激怒! デムチェンコから絵画を奪還しようとします。もちろん,少佐やミーシャらも絵画の行方を追い,一行はスペインへと向かう・・・というお話。
 今回のネタは,スパイ小説などでも最近よく登場するようになった「ロシア・マフィア」であります。本作品にもありますように,ロシア・マフィアにはKGBや軍隊から移ってきている人間がけっこう多いようで,その点で,他のギャング集団とはひと味もふた味も違うようです(ま,それだけ「たちが悪い」ということでしょうが・・・)。
 今回,絵画を盗み出す際に,伯爵は「サリー州立大学美術史教授 グローリア・ドリアナ・レッドマン」なる女性に変装するのですが,このキャラクタがまたとんでもない(笑)。
 「知らないふりをするのは女性排斥のセクハラです」「女性の体格を嘲るつもりね。セクハラだわ!」「わたしを見張ってストーカーなさる気!」
と,本物のフェミニストが見たら怒りまくるんじゃないかというようなセリフがポンポン出てきます。そういえば「熊猫的迷宮」「過激派フェミニスト」に痛い目にあった伯爵だけに,怨みがあるのかもしれませんね(笑)。で,大笑いしたのが,「これが犯人だ」と,女学者に化けた伯爵の写真を見せられたNATO情報部の面々の顔・・・。「ああ,これはきっと運命なんだ」と言いたそうな諦念に満ちた顔です。
 それと「彼女はじつはミーシャの5人目の妻なんだ」のセリフ。わたしも一瞬信じてしまいました(笑)。「アラスカ物語(付シベリア物語)」で出てきたミーシャの清楚な娘さんの母親とは,とても思えませんでしたもんね(^^ゞ。やっぱり少佐はいじわるですね(笑)。

 さて後半,デムチェンコが「パリスの審判」を売りつけようとする相手として,「旧ナチスの戦犯」が出てきます。今回のメインのネタである絵画はスターリンの強奪美術品ですし,それにナチス戦犯が絡んでくるところ,ヨーロッパが抱える現代史の暗部が巧みに取り入れられているようですね。
 そして舞台はスペインへ,好奇心旺盛で「教えたいモード」のスペイン人相手に,少佐がどう渡り合うのか,想像するだけで楽しみですね。

98/12/28

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