青池保子『エロイカより愛をこめて』20・21巻 秋田書店 1996・1997年

 文庫版『エロイカ』1巻の感想文をアップしたところ,何人かの方からメールをいただきました。『エロイカ』の公式ページの存在や,「復活編」が20巻からだということを教えていただきました。ありがとうございます。というわけで,古本屋で買った20・21巻です。

 さて「復活」の第1弾は「NO.15 ノスフェラトゥ」。舞台は東欧ルーマニア(ドラキュラの故郷ですね),ロシア軍から流れた核物質が,ネオ・ナチの手に渡りそうになるのを阻止しようとするお話です。
 で,そのオープニング。たしか,“仔熊のミーシャ”の「願い」は,“鉄のクラウス”ことエーベルバッハ少佐に“赤の広場”を見せることだったと思います。その「願い」がついに実現します(笑)。赤の広場にたつ少佐,そして彼を迎える“仔熊のミーシャ”と“白クマ”
 冷戦の終結,ソ連の崩壊,東西ドイツの統一。NATOの少佐と元とはいえKGBの情報員が“赤の広場”で仲良く(?)顔を合わせるなんて光景は,まさに,“白クマ”が言うように「時代は変わったのだ。これが冷戦後の光景だ」。もっとも,こう続けますが。「だが世界が変わろうと人の心は容易く変わるものではない」(笑)。
 それでも,いがみ合いながらも(狭いドアにふたりでいっぺんに入るんじゃない! 子供じゃないんだから(笑)),協力しながら(ときどきセリフがハモります)流出した核物質を追うわけですから,ふたりともやっぱりプロですね。とくに少佐がミーシャに対して「ご同行をお願いします」と,頭を下げるあたり・・・。う〜む,時代は変わった(笑)。

 ソ連の崩壊で,アメリカが世界唯一の超大国になったわけですが,これからの世界情勢で,どうしても無視できないのが中国の存在です。「NO.16 熊猫的迷宮」は,そんな中国情報員がからむ生物兵器の話。旧東独の秘密研究所で開発された“男殺しのウィルス”,そのウィルスに感染すると雌(女)しか埋めない躰になってしまう。開発するのが過激派フェミニストといったところも,なんとも現代風ですね。で,そのウィルスをめぐって少佐と中国情報員が熾烈な闘いを繰り広げるわけです。もちろん,例によって伯爵が絡んできます・・・。
 それにしても,この中国情報員の描き方,やたらと銃器類を振り回すような派手な立ち回り方は,香港映画のノリに近いですね。とくに青龍刀の少佐と槍の李剣光(中国側ボス)との闘いなんて,いかにもこの作品らしい“悪ノリ”でいいですね。中国側のボス・李剣光は松田優作がモデルらしいです。このにいちゃん,また出てくるんじゃないのかなぁ。「君のウィルスは消失した。さあ泣け!」「間の悪い意地悪だ」には大笑いしてしまいました。

 21巻の後半は「NO.17 トロイの木馬」。その名の通りギリシャが舞台のようです。懐かしのイタリアン・マフィア,ボロボロンテが登場します。まだ完結してないので感想は控えますが(22巻はもう出ているらしいです),久しぶりに少佐と部長の掛け合いマンザイが楽しめました。

(パソコンを前にして)
少佐「まあ覚える頃には部長で定年ですな」
部長「君も秘書なしの万年少佐でキーを叩いているだろうさ」

(両者にらみ合いながらしばし沈黙)
少佐「フランス対外情報局に怪しい動きがあります」
部長「・・・・・・・うむ」

 もう爆笑! ここらへんの「会話の妙」というか「間」は健在ですね。さあって,早いところ22巻を手に入れよう! ところで少佐と伯爵,少し太ったんじゃないですか? 部長やボーナムさんみたいにならないでね(笑)

97/11/01

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