高橋葉介『悪夢交渉人 ナイト・メア ネゴシエーター』朝日ソノラマ 2004年

 4話よりなる表題作と独立短編7編を収録しています。掲載誌は,最後の「リセット」『マガジンZ』の他は,『ホラーM』で,少年誌にはないブラックさ,グロテスクさが加味された,この作者らしい作品集となっています。

「悪夢交渉人 ナイト・メア ネゴシエーター」
 ボクの名前は夢継渉。お金をもらって悪夢を回収する悪夢交渉人だ…
 …という設定のシリーズ・エピソード4編よりなります。ただし,サブタイトルのない最初のエピソードは,夢が「異界との通路」としての役割を担っている,まっすぐなホラーですが,残り3編は,主人公が他人の夢にはいるというシチュエーションこそスーパーナチュラルなものの,むしろ「夢解き」といった感じの作品です。その夢を見ているのは「誰か?」「いつか?」「どういった状況か?」というミステリ色が強いように思えます。まぁ,この手の作品だったら,4編がいいヴォリュームでしょうね。これ以上やると同工異曲に陥りそうです。ところで,本編に材を取った本書中扉のカット,往年の「筆絵」を思わせますね。
「露店」
 結婚することになった友人の家の庭には,亀が一匹…
 こんなことを書くと怒られるかもしれませんが,お祭りや縁日の「露店」には,どこか「いかがわしさ」があります(しかし子どもにとっては,それは「魅力」でもあります)。この作家さんには,そんな「いかがわしさ」を上手に用いた作品がいくつかありますね(『学校怪談』5巻の「金魚」など)。不条理が日常性の中にとけ込んだ「奇妙なお話」です。この作者の佳品『怪談 KWAIDAN』を彷彿とさせ,本集中で一番楽しめました。
「リ・プレイ」
 “私”が世話を頼まれた赤ん坊は,異様な速さで成長し…
 アダルト・テイストな作品です。閉じこめられた「時間」の中で繰り広げられるグロテスクな不条理劇と見るか,あるいは,なにかのメタファと見るかは,人それぞれでしょう。
「家庭訪問」
 「魔法使い」を名乗る教師は,家庭訪問した先で…
 わ〜い!山岸くんだぁ!! たしかに『学校怪談』最終話で,「学校の先生のなった山岸くん」を九鬼子先生が夢見るというエピソードがありましたが,やっぱりなってたんだ。九鬼子先生の薫陶よろしく,「魔女」ならぬ,立派な「魔法使い」になって…お父さん,うれしい!(<意味不明^^;;) 『学校怪談』11巻の佳品「迷宮の森」のように,叙述ミステリ的テイストをもった作品も描く作者の持ち味が出ています。ただ「プール」の処理の仕方はちょっと不満。
「人魚の歌を聴くな」
 連続猟奇殺人事件に恐れおののく大都会の深夜,ひとりの女が…
 前作に引っ張られたせいか,本編の主人公の女性,思わず「九鬼子先生?」などと思っちゃいましたが(似てるんですもの(笑)),違いました。「歩くのが不自由」というところを,上手にラストにつなげていますね。それと前半と後半との,女性の表情のギャップもグッドです。
「お姉ちゃん」
 彼女が家庭教師をする少女には,奇妙な“お姉ちゃん”がいて…
 本当に怖いのは,怪異そのものではなく,怪異の背後にある「悪意」なのかもしれません。それも「無垢な悪意」は,よりいっそう怖さが深いのでしょう。
「印度の魔術」
 道ばたで見かけたマジックのパフォーマンス。その少年に一目惚れした“私”は…
 少女の狂気に収束しそうな物語は,一転してファンタジィへと昇華されます。グロテスクさとほのぼのミックス加減がいいですね。ところでこのマジックから,白土三平『サスケ』のワン・エピソードを連想するのは,立派なお達者?(^^ゞ
「リセット」
 “僕”は,実体化した妄想を修正する「修正者」。ちなみに公務員だ…
 ちょっとスラプスティク風味を持ったブラック・ファンタジィかと思いきや,後半で『KUROKO−黒衣−』にリンクしてびっくり。一種のインサイド・ストーリィといったところでしょうか(でも『KUROKO−黒衣−』を読んでいないと,設定があまりに唐突に思えてしまうかも?) この主人公,一見して,「を! (旧ヴァージョンの)立石双葉嬢!」と思ってしまいましたが(<また引っ張られてる(^^ゞ),別人の上,男性だったのが残念(笑) ところでこのコンビ,なんかシリーズ化されるような雰囲気もあります(あるいはそれが「狙い」か?)

04/07/04

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