柴田よしき『遙都 渾沌出現』トクマ・ノベルズ 1999年

 2度に渡る超自然的大災害により壊滅的な被害を受け,ゴースト・タウンと化しつつある京都は,“危機管理委員会”の管理下にあった。だが,委員会は“黒き神々”の手先により牛耳られいた。そして香流たちに忍び寄る彼らの魔手。香流たちは“黒き神々”の復活を阻止できるのか? 今,地球の未来を賭けて戦いが始まる!

 『炎都』『禍都』に続く「○都シリーズ」(というのかな?)の第3作です。
 「紅姫vs香流」という「男の奪い合い」で始まったこのシリーズは,『禍都』で,「宇宙種族」「黒き神々」「超古代文明」などといったアイテムが登場する「クトゥルフ神話」的な設定へと変わっていきましたが,今回でシフト完了といったところです。
 その設定変更にともなって,当然,描き方やストーリィ展開の仕方が変わるのは,いたしかたないのかもしれませんが,『炎都』ファンのわたしとしては,ちょっと残念な感じがしないでもありません。
 というのも,『炎都』の場合,現代の京都に妖怪が出現し,傍若無人の限りを尽くすという奇想天外なシチュエーションではありましたが,人間と妖怪との戦いなど,ディテールの描写が存分に盛り込まれ,「パニックもの」的な迫力がありました。また香流たち,登場するキャラクタも,いわば「京都の一市民」として,その戦いに参加していたわけです。

 しかし,『禍都』,そしてこの『遙都』へと,設定そのものがとんでもなく大きなものになっていくとともに,設定そのものがストーリィを引っ張っていくといった感じが強くなり,その分,個々のキャラクタが活躍できる「場」が相対的に減少しているように思います。いわば,各キャラクタが,設定の中の「役割」といった印象が強いのです。登場人物たちに,設定からの要求として,「黒き神々」に対抗する「選ばれた戦士」という性格が付与されたため,『炎都』が持っていた「身近さ」が失われつつあるように思います。それゆえ,ラストで「予言」が現実化し,とんでもない状況が日本を,そして世界を襲うわけですが,そのシーンの描写は,「数限りない死と嘆き,絶望と苦しみが,今,眼下の島々を襲っている」という言葉で済まされてしまっていて,『炎都』の持っていた「躍動感」「臨場感」のようなものが,残念ながら感じられません。

 まぁ,これは『炎都』の印象を引きずっている読者の,一方的な見方であって,先にも書きましたように,シリーズそのものの設定が変わってきているわけで,作者の描こうとする世界もまた違ってきているのでしょうし,それはそれで違うおもしろさが出てくるのでしょう。

98/05/23読了

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