柴田よしき『炎都 City Inferno』 トクマノベルズ 1997年

 地下水位の異常な低下。短時間に人間が干物のようになってしまうという不可解な連続殺人事件。賀茂川上流での魚の大量死。貴船神社を包む赤い光。続発する怪事件ののち,京都は巨大地震にみまわれ,周囲との交通路を遮断されてしまう。千年間の封印が破れるとき,甦った魑魅魍魎たちが,陸の孤島と化した京都の人々を襲う。急速に廃墟と化す千年の都は,二度と人の手に戻ることはないのか?

 いいですねえ,ハチャメチャは好きです。天狗は出てくるわ,河童は出てくるわ,ヤモリはしゃべるわ,百鬼夜行は出てくるわ,しまいには竜までも出てくる(九頭竜ですよ,九頭竜,キングギドラより6つも頭が多い!)。それらが京都を舞台に街は蹂躙するわ,空中で戦うわ,もう怪獣大決戦(笑)。しかし人間の方も黙っちゃいない。主人公がいいですね。木梨香流。ほとんどシガニー・ウィーバー(『エイリアン』)か,リンダ・ハミルトン(『ターミネーター2』)。武器を片手に妖怪たちに剛胆に立ち向かっていきます。それに比べて男性陣は影が薄いですね。主人公のひとり,真行寺君之は「帝」とかいわれつつも,なんだかやたらと頼りないし・・・。でも平安時代の天皇なんて,こんなもんだったのかもしれません。

 まあ設定は,愚かな現代人が封印を破ってしまったため,太古の邪悪なものが甦るという,クトゥルフ神話以来(もっと前からかな?)という,ありがちな話ではありますが,それによって生じるさまざまな災害やパニックなどが,丁寧に描かれていて,リアリティを与えています。だから一種のパニックものとしてのおもしろさも兼ね備えており,単なる荒唐無稽さだけでつっぱしる作品とは,少し様子が違います。それからところどころユーモラスな場面や会話が差し挟まれ,『ダイハード』『ターミネーター』みたいな感じがします(作品中に懐かしの怪獣映画やアクション映画への言及が多いです。妖怪の説明で「ギャオス」を出すあたり,知らん人にはわけわからんのやないかなあ)。荒唐無稽なことをリアルに描いた点で,佳品だと思います。

 ところで東京は男性(平将門や加藤保憲)によって破壊され,京都は女性(紅姫)によって破壊されるというのは,それぞれの都市に対するイメージの違いによるものなのでしょうか?

97/03/12読了

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